カバラ入門 - 生命の樹の10のセフィロト、22文字とゲマトリア、数秘術との関係

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この記事のポイント

ユダヤ神秘主義カバラの生命の樹を、10のセフィロト、『セフェル・イェツィラー』の22文字の分類、黄金の夜明け団のタロット対応から解説。ゲマトリアの計算例と、日本で「カバラ数秘術」と呼ばれる数秘術との違いも説明します。

日本の占いの本やサイトで「カバラ」という言葉を見かけるのは、たいてい数秘術かタロットの話の中です。けれども、カバラ(Kabbalah、ヘブライ語で「受け取ったもの・伝承」の意)はもともと中世ユダヤ教の神秘思想で、神と世界の関係を「生命の樹」と呼ばれる図で考える伝統でした。それが近代ヨーロッパのオカルティズムに取り入れられ、タロットや数の占いと結びつけられていったのです。

この記事では、生命の樹の基本を押さえたうえで、ヘブライ文字を数として読むゲマトリアを実際に計算し、日本で「カバラ数秘術」と呼ばれているものとどこが同じでどこが違うのかを説明します。

カバラの文献は何層にも重なっている

カバラは一冊の聖典からできた教えではなく、時代も土地も違う文献が積み重なった伝統です。

時代 文献・人物 内容
3〜6世紀ごろとする説が有力(異説あり) 『セフェル・イェツィラー(形成の書)』 10の「セフィロト」(数)と22文字で世界の成り立ちを説く短い書
12世紀後半、南フランス(プロヴァンス) 『セフェル・ハ=バヒール(光明の書)』 セフィロトを神の性質として語る初期のカバラ文献
13世紀後半、スペイン 『ゾハール(光輝の書)』 2世紀のラビ、シメオン・バル・ヨハイに仮託されたトーラー注解。現代の研究ではモーゼス・デ・レオンらの手によるとみられる
16世紀、サフェド(現イスラエル北部) イサク・ルリア 神の収縮(ツィムツーム)、器の破壊、修復(ティックーン)の宇宙論
15〜16世紀、イタリア・ドイツ ピコ・デラ・ミランドラ、ロイヒリン キリスト教神学に取り入れた「キリスト教カバラ」
19世紀末、イギリス 黄金の夜明け団(1888年創立) 生命の樹をタロット・占星術・儀式魔術と統合

カバラの歴史研究では、ゲルショム・ショーレムの『ユダヤ神秘主義の主潮流』(1938年にニューヨークで行った講義をもとに、1941年に初版)が今も基本文献です。ただし学術的な研究はショーレムに始まったわけではなく、19世紀にはフランスのアドルフ・フランクが『カバラ』(1843年)を、クリスチャン・D・ギンズバーグが『The Kabbalah』(1865年)を著しています。ショーレムの功績は、それまでの研究を批判的に組み直し、文献の年代と成り立ちを史料に基づいて明らかにした点にあります。

生命の樹:10のセフィロトと3本の柱

生命の樹は、神から流れ出る力が10の段階(セフィラ、複数形セフィロト)を経て現れる様子を図にしたものです。

番号 名称 意味 柱
1 ケテル(Keter) 王冠 中央
2 ホクマー(Ḥokhmah) 知恵 右(慈悲の柱)
3 ビナー(Binah) 理解 左(峻厳の柱)
4 ヘセド(Ḥesed) 慈愛 右
5 ゲヴラー(Gevurah) 力・峻厳 左
6 ティフェレト(Tiferet) 美 中央
7 ネツァハ(Netzaḥ) 勝利・持続 右
8 ホド(Hod) 栄光・威厳 左
9 イェソド(Yesod) 基礎 中央
10 マルクト(Malkhut) 王国 中央

右の柱は広がり与える力、左の柱は限り引き締める力を表し、中央の柱がその釣り合いをとると説明されます。ケテルとティフェレトのあいだには、数に入らない「ダアト(知識)」を置く図もあります。

セフィラ(sefirah)という語は、『セフェル・イェツィラー』ではもともと「数」に近い意味で使われていました。それが中世のカバラで神の性質や働きを表す言葉になり、樹の形の図にまとめられていきます。この語の変化そのものが、カバラと数の関係の古さを示しています。

22のヘブライ文字:3つの母字・7つの複字・12の単字

『セフェル・イェツィラー』は、ヘブライ語のアルファベット22文字を3つのグループに分けます。

  • 母字(3):アレフ(א)・メム(מ)・シン(ש)。空気・水・火に対応
  • 複字(7):ベート(ב)・ギメル(ג)・ダレト(ד)・カフ(כ)・ペー(פ)・レーシュ(ר)・タヴ(ת)。2通りの発音を持つ文字で、7つの惑星に対応
  • 単字(12):ヘー・ヴァヴ・ザイン・ヘート・テト・ヨッド・ラメド・ヌン・サメフ・アイン・ツァディ・コフ。12の星座・12の月に対応

複字と惑星の組み合わせは、『セフェル・イェツィラー』の写本の系統によって違いがあります。

生命の樹の10のセフィロトを結ぶ線は22本で、これを22文字に一つずつ当てるのが後代の図式です。

タロットとの結びつきは19世紀から

タロットは15世紀の北イタリアで遊びのカードとして生まれたもので、当初はカバラと関係がありませんでした。19世紀のフランスのエリファス・レヴィが大アルカナ22枚とヘブライ文字22字を対応させ、黄金の夜明け団がこれを組み替えて、生命の樹の22本の道にカードを一枚ずつ配しました。

黄金の夜明け団の対応では、「愚者」がアレフ(空気)で、ケテルとホクマーを結ぶ道に置かれます。続いて「魔術師」がベート(水星)、「女教皇」がギメル(月)です。レヴィは愚者をアレフではなくシンに当てていたため、同じ「カバラ対応」でも体系によって割り当てが違います。カードの意味はタロット(用語集)や大アルカナで扱っています。

ゲマトリアを計算してみる

ゲマトリアは、ヘブライ文字が数も表すことを利用して、語の数値を足し合わせ、同じ数になる語どうしの関係を読む解釈法です。基本の数値は次のとおりです。

1〜9 10〜90 100〜400
א アレフ 1 י ヨッド 10 ק コフ 100
ב ベート 2 כ カフ 20 ר レーシュ 200
ג ギメル 3 ל ラメド 30 ש シン 300
ד ダレト 4 מ メム 40 ת タヴ 400
ה ヘー 5 נ ヌン 50
ו ヴァヴ 6 ס サメフ 60
ז ザイン 7 ע アイン 70
ח ヘート 8 פ ペー 80
ט テト 9 צ ツァディ 90

例1:חי(ハイ、「生きている・命」)

  • ח(ヘート)= 8
  • י(ヨッド)= 10
  • 合計 8 + 10 = 18

このため18は「命」に通じる数とされ、ユダヤ教の家庭では祝い金や寄付を18の倍数の額で贈る習慣があります。

例2:אהבה(アハヴァー、「愛」)と אחד(エハド、「一つ」)

  • אהבה = א1 + ה5 + ב2 + ה5 = 13
  • אחד = א1 + ח8 + ד4 = 13

どちらも13になることから、「愛」と「(神は)一つ」を結びつける解釈が語られてきました。ゲマトリアは、このように語と語を数でつなぐのが主な使い方です。

日本の「カバラ数秘術」はゲマトリアとは別物

日本で「カバラ数秘術」と呼ばれているものの多くは、生年月日の数字を一桁になるまで足したり、ローマ字の名前をA=1、B=2…I=9、J=1…のように1〜9に置き換えて足したりする方法です。たとえば1990年4月5日生まれなら、1+9+9+0+0+4+0+5=28、2+8=10、1+0=1で「1」となります。

この方法は、20世紀初めのアメリカでミセス・L・ダウ・バリエットらが「ピタゴラスの数の教え」として広めた近代の数秘術の流れをくむもので、ヘブライ文字もセフィロトも使いません。11・22を一桁にしないマスターナンバーの考え方も、この近代の数秘術で生まれたものです。

整理すると、次のようになります。

ゲマトリア 近代の数秘術
文字 ヘブライ文字 ラテン文字(ローマ字)
数値 1〜400(文字ごとに決まっている) 1〜9に繰り返し割り当て
主な目的 聖典の語どうしの関係を読む 個人の性格や運勢を数で読む
生年月日 使わない 中心的に使う

ゲマトリアにも、数値を一桁に縮めて比べる「ミスパル・カタン(小さな数)」という方法があり、「数を一桁にする」発想自体はまったく無縁というわけではありません。それでも、日本で言う「カバラ数秘術」は、カバラの名を借りた近代西洋の数秘術と考えるのが正確です。生年月日から数を出してみたい方は数秘術の診断ツールを、数の占い全体の歴史は数秘術の占術解説をご覧ください。

中央の柱の瞑想:近代オカルティズムの実践

生命の樹は、近代の西洋魔術では瞑想の地図としても使われました。よく知られるのが、黄金の夜明け団の流れをくむイスラエル・リガルディーが『The Middle Pillar(中央の柱)』(1938年)で紹介した方法です。中央の柱にあるケテル・ダアト・ティフェレト・イェソド・マルクトを頭上から足元までの体の位置に重ね、呼吸に合わせて上から下へ順に意識を移していきます。

ただし、これはユダヤ教のカバラそのものの修行ではなく、近代の儀式魔術の中で作られた実践です。伝統的なユダヤ教では、カバラは律法とタルムードを十分に学んだ人が師について学ぶものとされ、若いうちから深入りすることを戒める言い伝えもありました。自分の性格や心の状態を生命の樹にあてはめて考えるのは一つの楽しみ方ですが、心の不調が続くときは、象徴の解釈に頼らず医療機関などの専門家に相談してください。

関連ページ

参考文献

  • Gershom Scholem, Major Trends in Jewish Mysticism, Schocken, 1941(邦訳:ゲルショム・ショーレム『ユダヤ神秘主義 その主潮流』山下肇ほか訳、法政大学出版局〈叢書・ウニベルシタス156〉、1985年、新装版2014年)
  • Adolphe Franck, La Kabbale, ou la philosophie religieuse des Hébreux, Hachette, Paris, 1843
  • Christian D. Ginsburg, The Kabbalah: Its Doctrines, Development, and Literature, London, 1865(Project Gutenberg)
  • Israel Regardie, The Middle Pillar, The Aries Press, Chicago, 1938
  • "Sefer Yetzira", Encyclopaedia Britannica(Britannica)
  • Sefer Yetzirah(原文と英訳:Sefaria)

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目次

  1. カバラの文献は何層にも重なっている
  2. 生命の樹:10のセフィロトと3本の柱
  3. 22のヘブライ文字:3つの母字・7つの複字・12の単字
  4. タロットとの結びつきは19世紀から
  5. ゲマトリアを計算してみる
  6. 日本の「カバラ数秘術」はゲマトリアとは別物
  7. 中央の柱の瞑想:近代オカルティズムの実践
  8. 関連ページ
  9. 参考文献
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