ジオマンシー入門 ― 16図形の成り立ちと、母から審判者までを実例で計算する
この記事のポイント
西洋の土占いジオマンシーを、アラビア語圏のラムルからラテン語訳への伝来、16図形の形と惑星対応、4つの母から娘・姪・証人・審判者を導く足し算の規則まで、1回分の計算例をたどって解説します。
紙と鉛筆さえあれば、数を数えずに点を打つだけで答えが出る占いがあります。中世のアラビア語圏で「イルム・アル=ラムル(砂の学)」と呼ばれ、ラテン語圏で geomantia(ジオマンシー、土占い)と名づけられた占術です。仕組みは驚くほど単純で、点の数が奇数か偶数かを見るだけです。この記事では、16種類の図形の形を確かめたうえで、16本の点の列から最後の「審判者」まで、実際に1回分を計算してみます。
なお、英語の geomancy は中国の風水の訳語にも使われますが、ここで扱う西洋のジオマンシーは土地や住まいの配置を見るものではなく、ひとつの問いに答えを出す質問占いです。
砂の上の点からラテン語の写本へ
ジオマンシーは、もともとアラビア語で体系化された学問だと考えられています。ドイツ・テュービンゲン大学の研究プロジェクトは、イブン・アル=マフフーフの『砂の三つ組の書』を「標準化されたジオマンシーの最初の著者」による書として取り上げつつ、体系化の始まりをたどれるのは12世紀のラテン語の論考群までで、その元になったアラビア語の文献は特定されていないとしています。北アフリカのザナーティーの名を冠したラムル書も後世に広く写されたことで知られますが、成立年代ははっきりしません。
ラテン語圏への入り口になったのは、12世紀のスペインで活動した翻訳者サンタリャのフーゴー(Hugo Sanctelliensis)による『土占いの術(Ars geomantiae)』です。現在知られる限り、ラテン語で書かれた最初期のジオマンシー文献とされます。13世紀後半には、ボローニャ大学で1288年から1297年ごろ天文学を講じたパルマのバルトロメオが『新しい土占いの術』や『土占い要説』を著し、ジオマンシーを占星術と結びついた、教えられる学問として整えようとしました。
16世紀には、ハインリヒ・コルネリウス・アグリッパの『隠秘哲学(De occulta philosophia)』三巻本(1533年)の第2巻第48章が、土占いの図形を扱っています。ただし、ジオマンシーの手順を詳しく説明した『隠秘哲学第四の書』(1559年刊)は、アグリッパの死後に彼の名で出た偽作とみるのが通説です。一方、イスラーム世界の内部でも、イブン・ハルドゥーンが『歴史序説』(1377年)でこの占いを批判しており、学問として受け入れられていたわけではありません。
16図形は「4段×奇偶」で過不足なく尽きる
ジオマンシーの図形は、4つの段を縦に重ねたものです。各段の点は1つ(奇数)か2つ(偶数)のどちらかなので、組み合わせは2×2×2×2=16通りで、すべての図形がちょうど一度ずつ現れます。近代以降の英語圏の解説では、上から頭・首・胴・足と呼び、それぞれ火・風・水・地の元素に当てることが多くなっています。
下の表では、上の段から順に点の数(1か2)を並べています。たとえば「1-1-2-1」は、頭・首・足が1点、胴だけが2点という形です。惑星対応は中世以来広く使われてきたもので、細部には文献ごとの異同があります。
| 図形名(意味) | 点の形(上→下) | 合計 | 惑星 |
|---|---|---|---|
| Via(道) | 1-1-1-1 | 4 | 月 |
| Populus(民衆) | 2-2-2-2 | 8 | 月 |
| Fortuna Major(大きな幸運) | 2-2-1-1 | 6 | 太陽 |
| Fortuna Minor(小さな幸運) | 1-1-2-2 | 6 | 太陽 |
| Acquisitio(獲得) | 2-1-2-1 | 6 | 木星 |
| Laetitia(喜び) | 1-2-2-2 | 7 | 木星 |
| Puella(少女) | 1-2-1-1 | 5 | 金星 |
| Amissio(喪失) | 1-2-1-2 | 6 | 金星 |
| Albus(白) | 2-2-1-2 | 7 | 水星 |
| Conjunctio(結合) | 2-1-1-2 | 6 | 水星 |
| Puer(少年) | 1-1-2-1 | 5 | 火星 |
| Rubeus(赤) | 2-1-2-2 | 7 | 火星 |
| Carcer(牢獄) | 1-2-2-1 | 6 | 土星 |
| Tristitia(悲しみ) | 2-2-2-1 | 7 | 土星 |
| Caput Draconis(竜の頭) | 2-1-1-1 | 5 | 月の昇交点 |
| Cauda Draconis(竜の尾) | 1-1-1-2 | 5 | 月の降交点 |
合計の点数が偶数(4・6・8)になる図形は、Via、Populus、Fortuna Major、Fortuna Minor、Acquisitio、Amissio、Conjunctio、Carcer の8つです。あとで見るとおり、最後の審判者には必ずこの8つのどれかが出ます。
図形どうしの足し算:奇数+奇数は偶数
チャートを組み立てるときに使う規則は一つだけです。2つの図形の同じ段どうしを足し、結果が奇数なら1点、偶数なら2点にします。
- 1点+1点=2(偶数)→ 2点
- 2点+2点=4(偶数)→ 2点
- 1点+2点=3(奇数)→ 1点
つまり「同じなら2点、違えば1点」です。奇数を1、偶数を0と置けば、コンピューターでいう排他的論理和(XOR)と同じ計算になります。
実例:16本の点の列から審判者まで
問いを「来月の引っ越しを予定どおり進めてよいか」とします。問いを心の中で保ちながら、数を数えずに16本の点の列を打ち、あとで各列の点を数えました。
| 列 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 点の数 | 13 | 9 | 8 | 11 | 10 | 12 | 7 | 14 | 9 | 6 | 12 | 8 | 14 | 11 | 7 | 9 |
| 奇偶→点 | 1 | 1 | 2 | 1 | 2 | 2 | 1 | 2 | 1 | 2 | 2 | 2 | 2 | 1 | 1 | 1 |
手順1:4つの母(Matres)
4列ずつ上から積むと、4つの「母」ができます。
| 形(上→下) | 図形 | |
|---|---|---|
| 第1の母(列1〜4) | 1-1-2-1 | Puer |
| 第2の母(列5〜8) | 2-2-1-2 | Albus |
| 第3の母(列9〜12) | 1-2-2-2 | Laetitia |
| 第4の母(列13〜16) | 2-1-1-1 | Caput Draconis |
手順2:4つの娘(Filiae)は「横に読み替える」
娘は足し算ではなく、母を横に読み替えて作ります。第1の娘は4つの母の「頭」の段を第1〜第4の母の順に上から並べたもの、第2の娘は「首」の段、第3の娘は「胴」、第4の娘は「足」の段です。
| 取り出す段 | 形(母1→母4) | 図形 | |
|---|---|---|---|
| 第1の娘 | 頭 | 1-2-1-2 | Amissio |
| 第2の娘 | 首 | 1-2-2-1 | Carcer |
| 第3の娘 | 胴 | 2-1-2-1 | Acquisitio |
| 第4の娘 | 足 | 1-2-2-1 | Carcer |
手順3:4つの姪(Nepotes)は隣どうしの足し算
| 計算 | 段ごとの和 | 形 | 図形 | |
|---|---|---|---|---|
| 第1の姪 | 母1+母2 | 3・3・3・3 | 1-1-1-1 | Via |
| 第2の姪 | 母3+母4 | 3・3・3・3 | 1-1-1-1 | Via |
| 第3の姪 | 娘1+娘2 | 2・4・3・3 | 2-2-1-1 | Fortuna Major |
| 第4の姪 | 娘3+娘4 | 3・3・4・2 | 1-1-2-2 | Fortuna Minor |
手順4:2人の証人(Testes)と審判者(Iudex)
| 計算 | 段ごとの和 | 形 | 図形 | |
|---|---|---|---|---|
| 右の証人 | 姪1+姪2 | 2・2・2・2 | 2-2-2-2 | Populus |
| 左の証人 | 姪3+姪4 | 3・3・3・3 | 1-1-1-1 | Via |
| 審判者 | 右の証人+左の証人 | 3・3・3・3 | 1-1-1-1 | Via |
伝統的な「盾形チャート」では、母と娘を最上段に右から左へ8つ並べ、その下に姪4つ、さらに下に証人2つ、最下段の中央に審判者を置きます。
審判者は Via(合計4点)で、たしかに偶数の8図形のひとつです。これは偶然ではありません。審判者の各段は、4つの母と4つの娘の同じ段をすべて足したものの奇偶で決まります。娘は母の点を並べ替えただけなので、8つの図形全体では母の16個の点がそれぞれ2回ずつ数えられます。そのため審判者の4段のうち「1点」になる段の数は必ず偶数になり、合計の点数も偶数になります。点を数え間違えたかどうかを確かめる検算にも使えます。
この結果をどう読むか
伝統的な解説では、Via は「道」の名のとおり移動や変化を表し、旅や引っ越しのように動くこと自体を問う質問には良い図形、物事を固めたい質問には向かない図形と読まれることが多いようです。右の証人は質問者の側や過去、左の証人は相手の側や今後を表すとする解説が多く、この例では右に集団や周囲を表す Populus、左に Via が出ています。伝統的な読みに沿えば「周りの状況はまだ定まっていないが、流れとしては動く方向にある」といった答えになります。
もちろん、これは乱数から出た図形に古い解釈を当てはめたものです。実際の判断は、日程や費用、家族の事情といった具体的な条件をもとに行ってください。
12ハウスに配置する読み方
盾形チャートのほかに、母・娘・姪の12図形を占星術の12ハウスに置く「ハウス・チャート」もあります。第1の母を第1ハウス(質問者自身)、第2の母を第2ハウス(財産)……と順に配置し、問いに関係するハウスにどの図形が来たか、同じ図形がほかのハウスにも現れるかを見ます。パルマのバルトロメオが土占いを占星術の「娘」と呼んだように、ジオマンシーはヨーロッパでは早くから占星術の枠組みと結びついていました。ハウスの意味はハウスの解説で確認できます。
易の卦との似ている点、違う点
2通りの線を重ねて図形を作る点で、ジオマンシーは易経の卦とよく比べられます。易は陰陽の爻を6本重ねて64通り、ジオマンシーは奇偶を4段重ねて16通りです。ただし、易は1つの卦とその変化(変爻)を読むのに対し、ジオマンシーは図形どうしを足し合わせて新しい図形を次々に作り、最後に1つの結論へ絞り込みます。両者のあいだに歴史的なつながりがあったことを示す史料は見つかっていません。易の立て方は易経入門で実例とともに紹介しています。
よくある質問
点はどうやって打てばよいですか?
伝統的には砂や土の上に棒で、中世ヨーロッパでは紙とペンで、数を数えずに一気に点の列を打ちました。現代の入門書では、サイコロやコイン、トランプで奇偶を決める方法も紹介されています。大切なのは、結果を意図して操作しないことです。
審判者がよくない図形だったら、もう一度やり直してもよいですか?
多くの手引きは、同じ問いを続けて何度も占うことを戒めています。答えが気に入らなかったときは、問いの立て方を見直すか、証人や各ハウスの図形を詳しく読むのが一般的です。
関連ページ
参考文献
- Thérèse Charmasson『Recherches sur une technique divinatoire: la géomancie dans l'Occident médiéval』Droz / Champion, 1980(中世ラテン語圏のジオマンシー写本研究の基本書)
- John Michael Greer『The Art and Practice of Geomancy: Divination, Magic, and Earth Wisdom of the Renaissance』Weiser Books, 2009 https://redwheelweiser.com/book/the-art-and-practice-of-geomancy-9781578634316/
- Heinrich Cornelius Agrippa『De occulta philosophia libri tres』1533(英訳 J. F. 訳 1651年版、第2巻第48章「Of Geomanticall Figures」) http://www.esotericarchives.com/agrippa/agrippa2.htm
- テュービンゲン大学 研究プロジェクト「The Triads of Ibn al-Maḥfūf: tracing the origin of Arabic geomancy and its reception in Europe and beyond」(DFG、2022–2025年) https://fit.uni-tuebingen.de/Project/Details?id=10160
この記事について
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