家相入門 - 鬼門・裏鬼門の由来と、間取り図に鬼門線を引く手順
この記事のポイント
家相の鬼門・裏鬼門はどこから来たのか。『論衡』が引く度朔山の伝説、江戸の家相書、真北と磁北の違いをふまえ、長方形の間取り図で家の中心を出し、張り・欠けを見分けて鬼門線を引く手順を具体例で説明します。
家を建てるとき、あるいは中古住宅や賃貸の間取り図を眺めるときに「この家は鬼門に玄関がある」「トイレが裏鬼門にかかっている」と言われることがあります。家相(かそう)は、家の中心から見た方位と間取りの配置で住まいの吉凶を判断する、日本で発達した住まいの占いです。
この記事では、まず鬼門という言葉がどこから来たのかを文献で確かめ、次に実際の間取り図で「家の中心」と「鬼門線」をどう引くのかを、数字を入れた例で説明します。家相の判断は流派によって細部が違うため、ここでは多くの流派に共通する骨組みを扱います。
鬼門の出典は『山海経』ではなく『論衡』の引用
「鬼門」の典拠としてよく挙げられるのが、東の海にある度朔山(どさくさん)の伝説です。後漢の王充(おうじゅう)が著した『論衡(ろんこう)』の訂鬼篇には、『山海経』からの引用として次の一節があります(原文「滄海之中,有度朔之山。上有大桃木,其屈蟠三千里,其枝間東北曰鬼門,萬鬼所出入也」の書き下し)。
滄海の中に度朔の山あり。上に大桃木あり、その屈蟠すること三千里。その枝の間の東北を鬼門といい、万鬼の出入りする所なり。
続けて、そこに神荼(しんと)・鬱塁(うつりつ)という二人の神がいて悪い鬼を葦の縄で縛って虎に食わせたこと、黄帝が門に桃の人形を立て、二神と虎の絵を描いて魔除けにしたことが語られます。同じ二神は『論衡』の乱龍篇にも登場しますが、「東北を鬼門という」という記述があるのは訂鬼篇のほうです。
注意したいのは、この一節が現在伝わっている『山海経』には見当たらないことです。王充が見た別の本文か、すでに失われた部分の引用と考えられています。「鬼門の出典は『山海経』」と書かれていることがありますが、正確には「『論衡』が『山海経』として引く、現行本にはない一節」です。
日本で鬼門が「避ける方位」になるまで
中国の文献にあったのは「北東に鬼の出入りする門がある」という伝説で、家の間取りから鬼門を外すという考え方は、日本で陰陽道の方位の禁忌と結びつくなかで強まっていきました。北東は十二支でいう丑と寅のあいだ(艮=うしとら)、南西は未と申のあいだ(坤=ひつじさる)にあたり、南西は鬼門の反対側として「裏鬼門」と呼ばれます。
都市の守りとしてよく知られるのが、平安京の北東にある比叡山延暦寺と、江戸城の北東の上野に天海が開いた東叡山寛永寺です。どちらも都の鬼門を守る寺と位置づけられてきました。
住宅の家相が庶民に広まったのは江戸時代後期です。家相を説く本が次々に刊行され、家を建てる前に「家相見」に間取りを見てもらい、方位盤を重ねた家相図を描いてもらう習慣が各地に残りました。国立国会図書館の目録で確認できる例を挙げます。
| 書名 | 著者 | 年代(目録の記載) |
|---|---|---|
| 『家相図解』 | 松浦久信(号は東鶏) | 寛政10年(1798) |
| 『地理風水 家相一覧』 | 松浦琴鶴 | 天保4年(1833)序、天保5年(1834)刊記 |
| 『家相秘伝集』 | 松浦琴鶴 | 明治26年(1893)刊の版が現存 |
松浦東鶏(とうけい)は江戸中期の易占家で、本名は久信と国立国会図書館の典拠録にあります。江戸から明治にかけて、こうした家相書が版を重ねたことが、現在の家相の判断法の土台になっています。
八方位と、四隅を広くとる流派
家相では、家の中心から周囲を方位で区切り、それぞれに八卦を割り当てます。
| 方位 | 八卦 | 五行 | 家相での主な扱い |
|---|---|---|---|
| 北 | 坎 | 水 | 寒さ・湿気に注意する方位 |
| 北東 | 艮 | 土 | 鬼門。玄関・水回り・不浄を避ける |
| 東 | 震 | 木 | 朝日が入り、吉とされることが多い |
| 南東 | 巽 | 木 | 玄関や台所によいとされる |
| 南 | 離 | 火 | 日当たり。熱のこもりに注意 |
| 南西 | 坤 | 土 | 裏鬼門。鬼門と同様に扱う |
| 西 | 兌 | 金 | 西日への対処が問われる |
| 北西 | 乾 | 金 | 主人の方位とされ、重んじられる |
八方位を均等に45度ずつ区切る方法のほかに、東西南北を各30度、北東・南東・南西・北西の四隅を各60度とする区切り方も家相や九星気学で広く使われます。どちらを採るかで、部屋が「鬼門に入るか」の判定が変わることがあるので、鑑定を受けるときはどの区切り方なのかを確かめると比較しやすくなります。五行の考え方そのものは五行の解説にまとめています。
間取り図で鬼門線を引く:長方形の家の例
ここからは、実際に図面で鬼門線を引く手順を、単純な長方形の家で説明します。
例の家:東西12m・南北9mの長方形。図面の上方向は、方位磁石で測った北(磁北)に合わせて描かれているとします。
手順1:真北を出す
家相で使うのは地図上の北、つまり真北(しんぽく)です。方位磁石の針が指す磁北は、日本では真北より西にずれています。国土地理院によると、このずれ(西偏の偏角)は東京付近で約7度40分、磁気図2020.0年値で札幌は約10度、那覇は約6度です。偏角は年々少しずつ変わるので、正確な値は国土地理院の地理院地図などで確かめられます。
磁北を上にした図面では、真北は上方向から時計回りに約7度40分回したところにあります。スマートフォンのコンパスアプリは設定で真北表示に切り替えられるものが多いので、どちらの北を測ったのかを確かめてください。
手順2:家の中心を出す
長方形なら、対角線の交点が中心です。この例では、南西の角から東へ6m、北へ4.5mの点になります。
手順3:鬼門線を引く
中心から真北に対して時計回り45度の向きに線を引くと鬼門線、反対の225度の向きが裏鬼門線です。図面の上(磁北)から測ると、45度+7度40分=52度40分になります。
中心から北の壁までは4.5mなので、線が北の壁に当たる位置は、中心から東へ 4.5m × tan(52度40分) ≒ 4.5 × 1.31 ≒ 5.9m。北の壁の上で、北東の角からわずか約0.1m西の点を通ります。
もし磁北のまま45度で引くと、中心から東へ4.5mの点、つまり北東の角から1.5m西を通ることになります。12m×9mの家でも、真北と磁北の取り違えだけで、鬼門線が壁の上で約1.4mずれるわけです。「トイレが鬼門線にかかる・かからない」といった判定は、この程度の差で入れ替わります。
手順4:張り・欠けを見分けて中心を直す
実際の家は完全な長方形とは限りません。家相では、外壁の出っ張りを「張り」、へこみを「欠け」と呼び、よく使われる目安は次のとおりです。
- 出っ張った部分の幅が、その辺の長さの3分の1以下なら「張り」
- 出っ張った部分の幅が3分の2以上なら、へこんでいる残りの部分を「欠け」とみる
例の家で、北東の角が東西3m・南北2mだけ切り欠かれているとします。北側の辺12mのうち、壁が出ているのは9mで、12mの3分の2(8m)以上です。そこで北東の3m×2mは「欠け」と判定します。欠けは補って長方形に戻して中心を取るので、中心は手順2と同じ位置のままです。この場合、鬼門線は欠けた部分を通るため、伝統的な家相では「鬼門の欠け」として注意すべき点に数えられます。
逆に、東の壁(9m)に幅2m・奥行き1mのポーチが付いている場合、2mは9mの3分の1(3m)以下なので「張り」です。張りは家の中心を出すときには含めません。
複雑な形の家では、図面を厚紙に貼って切り抜き、針の先で支えて釣り合う点を中心とする方法も昔から紹介されています。張り・欠けの境目の扱いや、ベランダ・車庫を含めるかどうかは流派によって違います。
間取りの吉凶をどう受けとめるか
家相書は、鬼門・裏鬼門の線上に玄関・トイレ・浴室・台所などを置くことを避けるように説きます。江戸時代の住まいでは、北東は日が当たりにくく湿りやすい場所で、くみ取り式の便所や水場を置けば傷みやすかったという事情があり、家相の戒めには住まいの経験則が含まれているという見方があります。
一方で、断熱・換気・上下水道が整った現代の住宅では、昔と同じ理由がそのまま当てはまるとは限りません。家相の判定で気になる点が見つかったときは、まず実際の日当たり・湿気・風通しを確かめ、水回りなら換気と掃除を欠かさないといった、住み心地に直結することから手を入れるのが現実的です。家相のために構造や設備を大きく変えるかどうかは、建築の専門家とも相談して決めてください。
方位の考え方を中国の流派と比べたい方は風水の流派比較を、インドの建築の方位論と比べたい方はヴァストゥ・シャーストラ入門をご覧ください。
よくある質問
マンションでも家相は見られますか?
見方は一戸建てと同じで、住戸の専有部分の図面から中心を出します。バルコニーは中心の計算に含めない流派が多く、共用廊下やパイプスペースも外して考えるのが一般的です。住戸の向きが図面の上下とずれていることが多いので、手順1の真北の確認が特に大切になります。
鬼門と、九星気学の吉方位は同じものですか?
別のものです。鬼門は家の中心から見た固定の方位(北東)ですが、九星気学の吉方位・凶方位は、生まれ年の九星とその年・月の星の配置から求めるため、人や時期によって変わります。引っ越しの方角を占うのは気学、家の間取りを見るのが家相、と分けて考えると混乱しにくくなります。
関連ページ
参考文献
- 王充『論衡』訂鬼篇・乱龍篇(原文:維基文庫「論衡/65」)
- 松浦久信『家相図解』寛政10年(1798)、西尾市岩瀬文庫蔵(国立国会図書館サーチ)
- 松浦琴鶴『地理風水 家相一覧』天保5年(1834)刊記、西尾市岩瀬文庫蔵(国立国会図書館サーチ)
- 松浦琴鶴『家相秘伝集』谷沢光吉、1893年(国立国会図書館サーチ)
- 国立国会図書館典拠データ「松浦, 東鶏」(Web NDL Authorities)
- 宮内貴久『家相の民俗学』吉川弘文館(日本歴史民俗叢書)、2006年
- 国土地理院「地磁気について」(国土地理院)、「磁気図」(国土地理院)
この記事について
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