沖縄のユタとは - カミダーリ・ハンジ・マブイグミと禁止の歴史
この記事のポイント
沖縄・奄美の民間巫者ユタを、ノロとの違い、成巫のきっかけとなるカミダーリ、相談(ハンジ)の中身、マブイグミの手順、王府から戦時下まで続いた禁止の歴史から解説します。「ユタ買い」の本来の意味も紹介。
沖縄には「医者半分、ユタ半分」ということわざがあります。病気になれば医者とユタの両方を頼る、という沖縄の暮らしぶりを言い表した言葉として知られています。ユタは沖縄・奄美で、運勢の吉凶、先祖のこと、死者の口寄せなどの相談に応じてきた民間の巫者(ふしゃ)で、多くは女性ですが男性もいます。
ノロは村の祭祀、ユタは家と個人の相談
沖縄の宗教者を語るとき、まず区別されるのがノロ(祝女)とユタです。琉球王国(1429〜1879年)では、国王の姉妹などが就く聞得大君(きこえおおきみ)を頂点に、各地のノロが村の御嶽(うたき)で公の祭祀を担いました。ノロは王府に任命される神職で、多くは特定の家筋から出ています。
ユタはこの制度の外にいます。家の不幸、病気、先祖の祀り方、家族の揉め事といった個人や家の悩みを、依頼を受けて一件ずつ扱う職能者です。『日本大百科全書』は、ユタが神意をうかがって判断を示すとき、悩みの原因を「拝み不足」とすることが多いと説明しています。
カミダーリ:病が「神の呼びかけ」と読み替えられる
ユタになるきっかけとして必ず語られるのがカミダーリ(神ダーリ)です。原因のわからない体調不良、幻覚、眠れない日々、生活が立ち行かなくなるほどの心身の不調が長く続き、医者にかかっても治らない。そうした人が先輩のユタに相談すると「神様が呼んでいる」「神の道に進まなければ治らない」と告げられる、というのが典型的な語りです。宗教人類学者の佐々木宏幹はこの語を「神祟り」とも訳しています。
本人は、御嶽や拝所を巡って拝んだり、師匠のユタから祈りの言葉や作法を学んだりするうちに不調が落ち着き、やがて自分も相談を受けるようになるとされます。『世界大百科事典』は、巫病にかかって神がかりし、聖地を巡るなかで成巫すると説明しています。
青森のイタコが幼いうちに師匠へ弟子入りし、修行と儀礼を経てなるのとは、この点で大きく違います(詳しくは恐山のイタコの解説)。シベリアなどの「シャーマン病」と比べる研究も多くあります。
なお、カミダーリとして語られる不調には、医療で治療できる病気が含まれていることもあります。文化的な意味づけを知ることと、つらい症状があるときに医療機関を受診することは、両立させてよいものです。
「ユタ買い」はユタに相談すること
ユタに判断を仰ぎに行くことを、沖縄では「ユタ買い(ユタコーヤー)」と言います。悪質商法を指す言葉ではなく、ユタに相談することそのものを指す日常的な言い方です。依頼者は一人のユタだけでなく、二、三人のユタを訪ねて判断を聞き比べることも珍しくないと言われます。
相談の中心がハンジ(判示)です。依頼者が持ち込んだ悩みに対し、ユタは「先祖の祀り方に誤りがある」「どこそこの拝所に拝みに行く必要がある」「マブイ(魂)を落としている」といった形で原因を示し、拝みや供養、マブイグミなどの対処を指示します。費用は決まっておらず、拝みの回数が増えると負担が大きくなることもあります。高額な支払いを求められて迷うときは、即決せず家族や消費生活センターに相談するのが安心です。
マブイグミの手順
沖縄では、人の魂(マブイ)は驚いたり事故にあったりした拍子に体から落ちることがあると考えられてきました。マブイを落とすと元気がなくなり、放っておくと重い病気になるとも言われます。落ちたマブイを体に戻す儀礼がマブイグミ(魂込め)です。ユタが行うこともあれば、家の年長の女性、たとえば祖母が行うこともあります。
ウィーン大学のイザベル・プロハスカは、2007年の論文で、よく語られる典型的な手順を次のように整理しています(子どもが自転車で転んだあと元気がない、という例)。
| 順序 | すること |
|---|---|
| 1. 原因を探す | 熱などの症状がなく、最近転んだことがわかる。マブイを落としたと判断する |
| 2. 衣服を用意する | 転んだ日に着ていた服と、供え物を準備する |
| 3. 落とした場所へ行く | 祖母(儀礼を行う人)と母親が、子どもと一緒に現場へ行く |
| 4. 呼び戻す | 供え物をし、小石を三つ拾う。子どもの名前を呼びながら、服に何かを包み込むように手招きする |
| 5. 体に戻す | 家に帰り、その服を子どもの体に当てて、マブイを中へ入れるようにする |
| 6. 食事をとる | 子どもの好物を作って家族で食べ、励ます。小石と服は数日、寝床のそばに置く |
落とした場所がわからない場合は家の中で行います。まずトイレの神(フールヌカミ)に供え物をして報告し、玄関で戸の外に向かって子どもの名前を三度呼んで手招きし、最後に頭・肩・背中を軽く叩いたりなでたりしてマブイを戻す、という流れです。
マブイは琉球の霊魂観のなかの一つの語で、生きている人のマブイ(イチマブイ)と死者のマブイ(シニマブイ)が区別されます。また、神や聖地、特定の人に宿る霊的な力はセジ(セヂ)と呼ばれ、ユタやノロは強いセジを持つ人とみなされてきました。
王府から戦時下まで、禁じられ続けた歴史
ユタは長いあいだ、取り締まりの対象でした。
- 琉球王国期:『日本大百科全書』によれば、王府は1728年に、ユタの弊害を重く見て禁止の布達を出しました。王府の儒学者たちは、ユタを人を惑わす迷信として批判しています
- 明治以降:琉球処分(1879年)の後も、行政によるユタの禁止や取り締まりが続き、大正期には「ユタ征伐」と呼ばれる運動もありました
- 昭和の戦時体制下:ユタは違法な存在とされ、警察に拘束されることもありました。これが一般に「ユタ狩り」と呼ばれる弾圧です
それでもユタへの相談はなくならず、人々の求めに支えられて続いてきました。愛知学院大学の石川雅健は、イタコが絶滅寸前とされるのに対して、ユタはインターネットを使うなど形を変えながら、むしろ数が増えているという報告もあると紹介しています。2020年には平井芽阿里『ユタの境界を生きる人々』(副題「現代沖縄のシャーマニズムを再考する」)のように、現代のユタを扱う研究も出ています。
夢や憑依を通じて知らせを受ける実践を世界的に比べると、ユタの位置づけもよく見えてきます。世界のシャーマニズム比較や夢・神託占いもあわせてどうぞ。
参考文献
- 桜井徳太郎『沖縄のシャマニズム 民間巫女の生態と機能』弘文堂、1973年
- 佐々木宏幹『シャーマニズム エクスタシーと憑霊の文化』中公新書、1980年
- 佐々木宏幹『憑霊とシャーマン 宗教人類学ノート』東京大学出版会、1983年
- 平井芽阿里『ユタの境界を生きる人々 現代沖縄のシャーマニズムを再考する』創元社、2020年
- 『日本大百科全書(ニッポニカ)』『改訂新版 世界大百科事典』「ゆた」の項(コトバンク)https://kotobank.jp/word/ゆた
- Isabelle Prochaska, "Lost and found – mabuigumi. Rückholung der verloren gegangenen Seele", MINIKOMI Nr. 74, Universität Wien, 2007. https://journals.univie.ac.at/index.php/aaj/article/download/074_018-024_ART_PROCHASKA2007/2568/3702
- 石川雅健「現代社会におけるシャーマニズム」『愛知学院大学教養部紀要』第68巻第1・2・3合併号、2021年 https://agu.repo.nii.ac.jp/records/2000047
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