世界のシャーマニズム比較 - シベリア・アマゾン・アフリカ・北欧で何が違うか

  • シャーマニズム
  • 文化人類学
  • エクスタシー技法

この記事のポイント

「シャーマン」はシベリアのエヴェンキ語に由来する言葉です。エリアーデの定義と「憑依はシャーマニズムか」という論争を軸に、シベリア・アマゾン・アフリカ・北欧(サーミとセイズル)・日本の実践を比べ、ハーナー以後のネオシャーマニズムへの批判も紹介します。

「シャーマン」は、もともとシベリアの一民族の言葉でした。それが世界中の宗教者を指す学術用語になったことで、便利になった面と、ちがうものを一つの箱に入れてしまった面の両方があります。この記事では、言葉の来歴と定義をめぐる論争を押さえたうえで、地域ごとの実践を比べます。

「シャマン」はエヴェンキ語から

英語の shaman は、シベリアのツングース系言語であるエヴェンキ語の šaman(シャマン)にさかのぼるとされます。「知る」を意味する語根と結びつける説がありますが、語源ははっきりしていません。

この語を最初に書き残した一人が、17世紀半ばにシベリアへ流刑になり、エヴェンキの人々と接したロシア正教の長司祭アヴァクームです。その後、オランダの政治家ニコラース・ヴィツェンが1692年に出版したシベリア・タタールの見聞録によって西ヨーロッパに伝わりました。もともとはシベリアの宗教者だけを指していた語が、19〜20世紀の人類学・宗教学のなかで、世界各地の似た実践にも使われるようになります。

エリアーデの定義と「憑依」をめぐる論争

この拡大を体系化したのが、宗教学者ミルチャ・エリアーデの『シャーマニズム 古代的エクスタシー技術』(原著フランス語版1951年、英語版1964年、日本語訳は堀一郎訳1974年)です。エリアーデはシャーマニズムを特定の宗教ではなく「エクスタシーの技術」と定義し、その中心に、シャーマンの魂が身体を離れて天界や地下界を旅する脱魂(だっこん)を置きました。

一方でエリアーデは、精霊が宗教者の身体に入り込んで語る憑依(ひょうい)を、本来のシャーマニズムが崩れた形とみなしました。これに対し、人類学者I・M・ルイスは『Ecstatic Religion』(1971年)で、脱魂と憑依を同じ「エクスタシー宗教」の連続した現象として扱い、アフリカの憑依儀礼も比較の対象に含めました。どこまでを「シャーマニズム」と呼ぶかは、今も研究者によって異なります。

地域ごとの比較表

地域 代表的な担い手 主な技法 世界観の特徴
シベリア エヴェンキ、サハ(ヤクート)、ブリヤートなど 太鼓と歌、脱魂の旅 天界・地上・地下の三層世界
アマゾン シピボ、シュアール、アシャニンカ、混血のベヘタリスタ アヤワスカなど植物、歌(イカロ) 植物や動物の精霊から知識を受ける
アフリカ 南部アフリカのサンゴマ、サンの治療ダンスなど 憑依、太鼓、踊り 祖霊・精霊との交流
北欧 サーミのノアイディ、古ノルドのヴォルヴァ 太鼓(サーミ)、詠唱と予言(セイズル) サーミと古ノルドで別の宇宙観
日本 イタコ、ユタ 口寄せ、ハンジ(判断) 死者・祖先・神との交流

表はあくまで目安で、どの地域の内部にもさらに多様な伝統があります。

シベリア:太鼓に乗って魂が旅する

シベリアのシャーマンは、エリアーデが「典型」とした脱魂型です。太鼓のリズムと歌でトランスに入り、助けとなる動物の精霊とともに上の世界や下の世界へ行って、病人から失われた魂を取り戻したり、死者の魂をあの世へ送ったりします。太鼓はシャーマンを運ぶ乗り物にたとえられることがあります。

アマゾン:植物から学ぶ

アマゾン流域では、アヤワスカ(バニステリオプシス・カーピというつる植物に、DMTを含む植物を加えて煮出した飲み物)を用いた儀礼がよく知られています。人類学者ルイス・エドゥアルド・ルナは『Vegetalismo』(1986年)で、ペルーのアマゾンに住む混血の治療者ベヘタリスタが、植物を「先生」として断食や食事制限をしながら歌(イカロ)や治療の知識を学ぶ様子を記録しました。ジェレミー・ナービーの『The Cosmic Serpent』(原著フランス語版1995年、英語版1998年)は、アシャニンカの人々のもとでの体験から、シャーマンの知識とDNAを結びつける大胆な仮説を述べた本で、方法論が弱いという書評も出ています。

注意

アヤワスカに含まれるDMTは、日本では麻薬及び向精神薬取締法の「麻薬」に指定されており、DMTを含む植物の煎じ液を麻薬として扱った判決もあります。健康面でも、つる植物に含まれる成分がMAO阻害作用を持つため、抗うつ薬(SSRIなど)との併用でセロトニン症候群を起こす危険が指摘され、海外の儀礼参加者に死亡例も報告されています。この記事は文化として紹介するもので、使用を勧めるものではありません。

アフリカ:「シャーマン」と呼ぶべきか

サハラ以南のアフリカでは、精霊や祖霊が担い手に降りてくる憑依型の実践が多く見られます。南部アフリカのサンゴマ(祖霊の導きで占いや治療を行う)、カラハリのサンの人々が夜通し踊ってトランスに入り治療を行うダンスなどが代表例です。

ただし、これらを「シャーマニズム」と呼ぶことには異論があります。エリアーデの定義では憑依は本来の形ではなく、多くの地域では担い手が精霊を「操る」というより精霊の器として語る点も、シベリアとは違います。逆にルイスのように広い定義をとる研究者は、アフリカの憑依儀礼をシャーマニズムの比較に含めます。それぞれの土地の呼び名(サンゴマなど)で理解するのが無難です。

北欧:サーミのノアイディと古ノルドのセイズルは別の伝統

「北欧のシャーマニズム」には、性格の違う二つの伝統が含まれます。

一つは、スカンディナヴィア北部の先住民サーミのノアイディ(noaidi)です。ノアイディは太鼓を打ってトランスに入り、別の世界から知らせを得たとされます。17〜18世紀のキリスト教布教のなかで多くの太鼓が没収・焼却され、1691〜92年にはノアイディが裁かれた裁判の記録も残っています。現存する太鼓は70〜80個ほどです。

もう一つが、ヴァイキング時代の古ノルド人のセイズル(seiðr)です。主に女性の予言者ヴォルヴァが担い、『赤毛のエイリークのサガ』には、グリーンランドの農場に招かれた予言者が高い座に座り、グズリーズという女性が歌う呪歌に助けられて村の行く末を語る場面が描かれています。考古学者ニール・プライスの『The Viking Way』(2002年)は、こうした文献と墓の副葬品を合わせてセイズルを論じています。セイズルについては用語集のセイズル、北欧の占い全般は北欧・ゲルマンの占い文化にまとめています。

日本:修行で成るイタコ、召命で成るユタ

日本では、青森のイタコと沖縄のユタがよく比較されます。ただ、二人がどうやって巫者になるかは対照的です。イタコの多くは目の不自由な少女で、師匠に弟子入りして経文や祭文を覚え、成巫儀礼を経て一人前になります。ユタは、原因不明の心身の不調カミダーリを「神の呼びかけ」と受け止めて巫者になる人が多く、病による召命という点でシベリアのシャーマン病に近い形です。詳しくは恐山のイタコと沖縄のユタの記事をご覧ください。

ハーナーの「コア・シャーマニズム」とその批判

20世紀後半、人類学者マイケル・ハーナーは、エクアドルのシュアール(ヒバロ)やペルーのコニボでの調査をもとに『The Way of the Shaman』(1980年、日本語訳『シャーマンへの道』1989年)を著しました。地域の文化から切り離した共通の技法を「コア・シャーマニズム」と名づけ、太鼓の音で意識を変えて「下の世界」へ旅する方法を欧米の一般の人に教えています。

この試みはネオシャーマニズムと呼ばれる実践を広めた一方で、先住民の宗教を文脈から切り離して商品化している、各地の違いを無視して一つの「本質」を想定している、といった批判を受けてきました。学術書としてのエリアーデやルナと、実践の手引きとしてのハーナーは、性格の違う本として読み分けるのがよいでしょう。夢やお告げを扱う占い全般は夢・神託占いで紹介しています。

参考文献

  • Mircea Eliade, Le Chamanisme et les techniques archaïques de l'extase, Payot, 1951(英語版 Shamanism: Archaic Techniques of Ecstasy, Princeton University Press, 1964)https://press.princeton.edu/books/paperback/9780691210704/shamanism
  • ミルチア・エリアーデ『シャーマニズム 古代的エクスタシー技術』堀一郎訳、冬樹社、1974年(ちくま学芸文庫 上・下、2004年)https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480088376/
  • I. M. Lewis, Ecstatic Religion, Penguin, 1971(改訂版1989年)
  • Luis Eduardo Luna, Vegetalismo: Shamanism among the Mestizo Population of the Peruvian Amazon, Almqvist & Wiksell International, 1986
  • Jeremy Narby, Le serpent cosmique: l'ADN et les origines du savoir, Georg, 1995(英語版 The Cosmic Serpent, Tarcher/Putnam, 1998)
  • Michael Harner, The Way of the Shaman, Harper & Row, 1980(マイケル・ハーナー『シャーマンへの道』高岡よし子訳、平河出版社、1989年)
  • Neil Price, The Viking Way: Religion and War in Late Iron Age Scandinavia, Uppsala University, 2002
  • 佐々木宏幹『シャーマニズム エクスタシーと憑霊の文化』中公新書、1980年

この記事について

公開日
更新日

この記事はAIの補助を使って下書きし、運営者が内容と日付を確かめてから公開しています。暦の日付は天文計算で求め、春分・秋分などは国立天文台の公表値と照らし合わせています。占いの内容は楽しみとしてお読みください。

編集方針を読む まちがいを報告する

次の記事 カバラ入門 - 生命の樹の10のセフィロト、22文字とゲマトリア、数秘術との関係 無料の占いツール おみくじ・タロット・相性占いなど12種類を試す

目次

  1. 「シャマン」はエヴェンキ語から
  2. エリアーデの定義と「憑依」をめぐる論争
  3. 地域ごとの比較表
  4. シベリア:太鼓に乗って魂が旅する
  5. アマゾン:植物から学ぶ
  6. アフリカ:「シャーマン」と呼ぶべきか
  7. 北欧:サーミのノアイディと古ノルドのセイズルは別の伝統
  8. 日本:修行で成るイタコ、召命で成るユタ
  9. ハーナーの「コア・シャーマニズム」とその批判
  10. 参考文献
リンクをコピーしました