インド占星術ジョーティッシュ入門 - サイデリアル方式・ナクシャトラ・ダシャーを計算例で理解する
この記事のポイント
インド占星術ジョーティッシュの基本を、恒星基準のサイデリアル方式、27ナクシャトラ、ヴィムショッタリ・ダシャーの計算例で解説。『ヴェーダーンガ・ジョーティシャ』の年代の諸説やギリシャ占星術の影響など、歴史もあわせて紹介します。
西洋占星術で牡羊座の人が、インド占星術では魚座になる。ジョーティッシュ(Jyotiṣa)を調べ始めた人がまず驚くのがこの点です。理由は、インド占星術が黄道の12区分を春分点ではなく恒星を基準に測っているからです。
この記事では、その「ずれ」がどこから来るのかを説明し、実際の日時を例に、太陽と月の位置からラーシ(星座)・ナクシャトラ(月宿)・最初のダシャー(運気の時期区分)までを順に計算します。後半では、ジョーティッシュの成り立ちについて、伝統的な見方と歴史研究の見方を並べて紹介します。
春分点基準と恒星基準:約24度のずれ
西洋占星術の多くは、春分点(太陽が天の赤道を南から北へ横切る点)を牡羊座0度とするトロピカル方式を使います。ところが春分点は、地球の自転軸の首振り運動(歳差)によって、星々に対して約72年に1度ずつ西へずれていきます。
ジョーティッシュは星座を恒星に結びつけたまま測るサイデリアル方式です。両者の差をアヤナムシャ(ayanāṃśa)と呼び、インドで最も広く使われるラヒリ方式では、2026年時点で約24度13分あります。ラヒリ方式は、1950年代のインドの暦法改革で採用された基準に由来します。
つまり、トロピカル方式の黄経から約24度を引くと、サイデリアル方式の黄経になります。牡羊座の0〜24度ほどに太陽がある人は、ジョーティッシュでは一つ手前の魚座になるわけです。
ジョーティッシュの骨組み:12ラーシ・27ナクシャトラ・9惑星
| 要素 | 数 | 1区分の幅 | 内容 |
|---|---|---|---|
| ラーシ(Rāśi) | 12 | 30度 | サイデリアル方式の12星座 |
| ナクシャトラ(Nakṣatra) | 27 | 13度20分 | 月が1日に進む距離にほぼ相当する月宿 |
| ナヴァグラハ(Navagraha) | 9 | ― | 太陽・月・火星・水星・木星・金星・土星と、ラーフ・ケートゥ |
ラーフとケートゥは天体ではなく、月の通り道(白道)が黄道と交わる2つの点です。日食・月食はこの交点の近くで起きるため、神話では太陽と月を呑みこむ魔物の頭と胴として語られます。天王星・海王星・冥王星は伝統的には使いません。
ナクシャトラはアシュヴィニーに始まりレーヴァティーに終わり、それぞれに支配星が割り当てられています。この支配星が、ジョーティッシュ独自の時期の読み方であるダシャーの出発点になります。日本に伝わった宿曜経の27宿も、このナクシャトラの体系につながるものです。
ヴィムショッタリ・ダシャー:120年を9つの惑星で分ける
最もよく使われるヴィムショッタリ・ダシャー(Viṃśottarī Daśā)は、人生を120年の周期とみて、9つの惑星に次の年数を割り当てます。
| 順番 | 惑星 | 年数 | 支配するナクシャトラ |
|---|---|---|---|
| 1 | ケートゥ | 7 | アシュヴィニー、マガー、ムーラ |
| 2 | 金星 | 20 | バラニー、プールヴァ・パールグニー、プールヴァ・アーシャーダー |
| 3 | 太陽 | 6 | クリッティカー、ウッタラ・パールグニー、ウッタラ・アーシャーダー |
| 4 | 月 | 10 | ローヒニー、ハスタ、シュラヴァナ |
| 5 | 火星 | 7 | ムリガシラー、チトラー、ダニシュター |
| 6 | ラーフ | 18 | アールドラー、スヴァーティー、シャタビシャー |
| 7 | 木星 | 16 | プナルヴァス、ヴィシャーカー、プールヴァ・バードラパダー |
| 8 | 土星 | 19 | プシュヤ、アヌラーダー、ウッタラ・バードラパダー |
| 9 | 水星 | 17 | アーシュレーシャー、ジェーシュター、レーヴァティー |
7+20+6+10+7+18+16+19+17=120年です。生まれたときに月がいたナクシャトラの支配星から始まり、この順番で巡ります。最初の時期の長さは、月がそのナクシャトラをどこまで進んでいたかで決まります。
計算例:1990年4月5日午前9時、東京生まれ
架空の人物として、1990年4月5日9時00分(日本時間、世界時では同日0時00分)に東京で生まれた人を考えます。天体の位置は天文計算ライブラリ(Swiss Ephemeris と PyEphem)で求め、両者が1分角以内で一致することを確かめた値です。
手順1:アヤナムシャを引く
この日時のラヒリ方式のアヤナムシャは23度43分です。
| 天体 | トロピカル黄経 | サイデリアル黄経(−23度43分) |
|---|---|---|
| 太陽 | 14度57分(牡羊座14度57分) | 351度14分 |
| 月 | 136度22分(獅子座16度22分) | 112度39分 |
手順2:ラーシを求める
サイデリアル黄経を30度で割ります。
- 太陽:351度14分 ÷ 30 → 11余り21度14分。12番目のミーナ(魚座)の21度14分
- 月:112度39分 ÷ 30 → 3余り22度39分。4番目のカルカ(蟹座)の22度39分
西洋占星術では「太陽が牡羊座、月が獅子座」の人が、ジョーティッシュでは「太陽が魚座、月が蟹座」になります。
手順3:ナクシャトラを求める
サイデリアル黄経を13度20分(=13.333…度)で割ります。
- 太陽:351.23 ÷ 13.333 = 26.34 → 27番目のレーヴァティー(346度40分〜360度)
- 月:112.65 ÷ 13.333 = 8.45 → 9番目のアーシュレーシャー(106度40分〜120度)
生まれの月宿(ジャンマ・ナクシャトラ)はアーシュレーシャーです。月はその中を106度40分から5度59分進んでいて、13度20分のうち44.9%を通過しています。
手順4:最初のダシャーを出す
アーシュレーシャーの支配星は水星(17年)です。残りは 17年 ×(1 − 0.449) ≒ 9.37年、およそ9年4か月半です。
| ダシャー | 期間(1年=365.25日で計算) |
|---|---|
| 水星(残り) | 誕生〜1999年8月ごろ |
| ケートゥ(7年) | 〜2006年8月ごろ |
| 金星(20年) | 〜2026年8月ごろ |
| 太陽(6年) | 〜2032年8月ごろ |
この人は2026年10月の時点で、太陽のダシャーに入ったばかり、という読み方になります。
月は1時間におよそ0.5度進むため、出生時刻が1時間ずれるだけで、最初のダシャーの残りは約0.7年変わります。1年を360日とみなす計算法を使うソフトもあり、同じ生年月日でも期間の境目が数か月ずれることがあります。ジョーティッシュで出生時刻が重視されるのはこのためです。
実際の出生図(クンダリー)で確かめること
上の計算は、出生図を読むための入り口にあたります。実際には次のような手順を踏みます。
- 生年月日・出生時刻・出生地の緯度経度から、サイデリアル方式で図を作る
- ラグナ(上昇宮。東の地平線に昇っていたラーシ)を出し、そこから12のハウスを数える
- 9惑星がどのラーシ・ハウスにあるかと、惑星から他のハウスへの視線(ドリシュティ)を見る
- ダシャーとその中の小区分(アンタルダシャー)で、どの惑星の時期かを確かめる
ラグナは約2時間で次のラーシへ移るため、出生時刻が不確かな場合はラグナを使った判断を控え、月のナクシャトラ中心に読むなどの慎重さが求められます。西洋式の出生図との読み方の違いはホロスコープの読み方と比べるとわかりやすいでしょう。
成立年代の二つの見方
『ヴェーダーンガ・ジョーティシャ』は暦の書
最も古い天文の書として伝わるのが、ラガダの作とされる『ヴェーダーンガ・ジョーティシャ』です。ヴェーダの祭式を正しい日に行うための暦の計算を述べたもので、ホロスコープを使う占星術の書ではありません。
その年代には大きな幅があります。本文に書かれた冬至の位置から、紀元前1400〜1200年ごろの観測を伝えるとする見方がある一方、科学史家のデイヴィッド・ピングリーや数学史家のキム・プロフカーらは、使われている言語や計算法から紀元前5〜4世紀ごろの成立と見ています。
ホロスコープ占星術とギリシャの影響
出生時の天体配置から人の一生を読むホロスコープの技法は、紀元後の早い時期にギリシャ語圏の占星術がインドに伝わり、在来の暦法やナクシャトラと結びついて発展したと考えられています。ピングリーが校訂した『ヤヴァナジャータカ』(「ギリシャ人の出生占星術」の意)はその流れを伝える文献です。
6世紀のヴァラーハミヒラは『ブリハット・ジャータカ』『ブリハット・サンヒター』などを著し、のちの標準的な教科書になりました。聖仙パラーシャラに帰される『ブリハット・パラーシャラ・ホーラー・シャーストラ』は、現代のジョーティッシュで最もよく参照される古典ですが、現在の形にまとまったのはかなり後の時代とみられ、成立年代ははっきりしません。
「数千年の伝統」と紹介されることもありますが、天文暦としての起源と、ホロスコープ占星術としての体系は分けて考えるのが、歴史研究の一般的な立場です。
カルマと「変えられる未来」
ジョーティッシュはヒンドゥー教のカルマの考え方と結びつき、出生図は過去の行為の結果を映すと説かれます。一方、ハート・デフォー(Hart de Fouw)とロバート・スヴォボダ(Robert Svoboda)の入門書『Light on Life』のように、図はあくまで傾向を示すもので、本人の努力(プルシャーカーラ)によって結果は変わりうるという伝統的な考え方を強調する解説もあります。健康やお金、結婚など人生の大事な判断は、占星術の読みだけで決めず、それぞれの専門家に相談してください。
関連ページ
参考文献
- David Pingree, Jyotiḥśāstra: Astral and Mathematical Literature (A History of Indian Literature, vol. 6, fasc. 4), Otto Harrassowitz, Wiesbaden, 1981
- David Pingree (ed. & tr.), The Yavanajātaka of Sphujidhvaja, 2 vols. (Harvard Oriental Series 48), Harvard University Press, 1978
- Kim Plofker, Mathematics in India, Princeton University Press, 2009(Princeton University Press)
- Hart de Fouw & Robert Svoboda, Light on Life: An Introduction to the Astrology of India, Penguin, 1996
- Astrodienst, Swiss Ephemeris(天体位置とラヒリ方式のアヤナムシャの計算に使用)
この記事について
この記事はAIの補助を使って下書きし、運営者が内容と日付を確かめてから公開しています。暦の日付は天文計算で求め、春分・秋分などは国立天文台の公表値と照らし合わせています。占いの内容は楽しみとしてお読みください。