宿曜経の27宿
宿曜経は、月の通り道を27の「宿」に分けるインドの占星術を、8世紀の唐で漢訳した経典です。 このページでは本命宿の求め方と経の考え方を、各宿のページでは経がその宿について書いている原文と訳を紹介します。
生年月日から本命宿を調べる
1925〜2035年に対応。新暦の日付を旧暦に直し、その月の1日の宿から数えます。入力した内容は送信・保存されません。
宿曜経とは
正式な名は『文殊師利菩薩及諸仙所説吉凶時日善悪宿曜経』。文殊菩薩と仙人たちが日の吉凶を説く形をとっていますが、中身はインドの暦と占星術の入門書です。 巻上の序には「和上以乾元二年翻出此本」とあり、密教僧の不空が乾元2年(759年)に訳出し、弟子の楊景風が広徳2年(764年)に注を加えて整えたことがわかります。 序によれば最初の訳は史瑤が筆録したもので、文がわかりにくかったため楊景風が改めて注を付けました。下巻がこの初訳、上巻が楊景風の改訂版だとする説もあり、上下巻で同じ事柄の説明が食い違う箇所があります。 二十七宿・十二宮・七曜を使って、生まれた日と、日々の吉凶を占う方法が説かれています。
日本へは空海が大同元年(806年)に請来し、円仁・円珍も伝えました。平安時代には宿曜経をよりどころにする「宿曜道」が成立し、宿曜師が生年月日からその人の運勢を記した「宿曜勘文」を作り、暦の作成をめぐって暦道と争うほどの力を持ちました。 『源氏物語』「桐壺」で、帝が幼い光源氏の行く末を「宿曜のかしこき道の人」に占わせる場面は、こうした宿曜師の姿を映したものです。宿曜道は南北朝時代以後に衰えます。
暦の注記(暦注)としての二十七宿も、江戸時代の貞享暦(1685年)で牛宿を含む二十八宿に置き換えられました。 20世紀には森田龍僊『密教占星法』(1941年)のような研究書も出ました。いま書籍やウェブで見かける性格・相性中心の「宿曜占星術」は近代以降に広まった現代の占いで、その解釈は経の文言そのものではありません。各宿のページでは、経の本文と現代的な読み方を分けて示しています。
なぜ28ではなく27宿なのか
中国の天文学は、天を不等間隔の二十八宿に分け、東西南北の四神に七宿ずつ配しました。一方、インドのナクシャトラは黄道を13°20′ずつ27等分したもので、月が星々の間を一周する恒星月(約27.3日)とおよそ1日1宿で対応します。 漢訳のときナクシャトラに二十八宿の名が当てられましたが、27等分の体系ではアビジット(ベガ付近の星)を数えないため、それにあたる牛宿が除かれました。
唐用二十八宿,西國除牛宿,以其天主事之故
巻下の注は「唐は二十八宿を用いるが、西国(インド)は牛宿を除く。天主がこの宿のことを司るからである」と説明しています。巻上の各宿の解説には牛宿の項もあり、神を梵摩神(ブラフマー)とし、楊景風は「天竺では牛宿を吉祥の宿とする」と注しています。
経が挙げる星の数や形は中国の二十八宿と合わないことが多く、楊景風自身が「経文の説く星は多く中国と相符せず」と断っています。各宿のページの「星空での位置」はこの違いがわかるように並べています。
本命宿の決め方
本命宿は、生まれた日に月が宿っていた宿です。経は暦の上の簡便な求め方を、巻下で次のように説きます。
夫欲求人所屬宿者,即於圖上,取彼生月十五日下宿,從此望宿逆順數之,至彼生日止,則求得彼人所屬宿也
「生まれた月の十五日(満月)の宿を図から取り、そこから生まれた日まで逆または順に数えれば、その人の宿が得られる」。インドでは満月の宿を月の名にしたため、二月は角月、三月は氐月……と各月の十五日の宿が決まっています。 経の例では、二月十七日生まれなら十五日の角から亢・氐と数えて氐宿生まれ、楊景風の注では二月五日生まれが畢宿です。
十五日から数えても1日から数えても結果は同じで、日本では各月1日(朔日)の宿の表で覚えるのが一般的です。国立天文台の解説にある表と同じものです。
- 新暦の生年月日を旧暦(太陰太陽暦)の月日に直す。
- その月の1日の宿を上の表で引き、生まれた日まで1日1宿ずつ進める。牛宿は数えず、胃宿の次は昴宿に戻る。
- 閏月に生まれた場合は、同じ数の月と同じ宿から数える(例:閏九月なら氐宿から)。
閏月の扱いは経にも国立天文台の解説にも書かれておらず、上は現代の解説で一般的な扱いです。また平安時代の宿曜師は、暦の表ではなく符天暦で計算した実際の月の位置から本命宿を定めていた例が知られており、月の実際の位置で出すと表の方法と結果が異なる場合があります。 このページの計算機は、旧暦を当サイトの暦データ(天文計算で求めた朔と中気から組んだ旧暦)で出し、表の方法を使っています。経の二つの例と、旧暦の月日がわかっている日付(1986年10月19日=旧暦9月16日=畢宿など)で検算しています。
七種の分類
巻上は27宿を性質によって七つに分け、それぞれの日に向くことと、その組に生まれた人の性質を書いています。各宿の個別の記述とあわせて読むのが経の読み方です。
上の組分けは巻上(大正蔵21巻 p.390c16–391a27)によります。巻下の同じ箇所では、急速宿を「鬼・軫・牛・婁」、猛悪宿を「胃・星・張・箕・室」としていて、胃宿の扱いと牛宿の有無が巻上と違います。上下巻の成り立ちが異なることを示す箇所の一つです。
三九の秘法
自分の本命宿を「命」とし、27宿を順に「命・栄・衰・安・危・成・壊・友・親」と九つずつ数えます。二巡目の先頭は「業」、三巡目の先頭は「胎」で、残りは同じ順に繰り返します(巻上「三九祕宿品第三」)。 たとえば畢宿生まれなら、觜が栄、参が衰……翼が親、軫が業、女が胎になります。
凡與人初結交者,先須看彼人命宿押我何宿,又看我命宿押彼人何宿,大抵以榮、安、成、友、親為善,堪結交;自餘並惡,不可與相知
「人と初めて交わるときは、相手の命宿が自分から見て何にあたるか、自分の命宿が相手から見て何にあたるかを見よ。おおむね栄・安・成・友・親が善く、交わってよい。それ以外はみな悪く、付き合ってはならない」。 経はもともと、この関係を日の吉凶を選ぶのに使っています。その日の宿が自分から見て何にあたるかで、向く事柄が変わります。
日の用い方は巻下(大正蔵21巻 p.397c25–398a13)の要約です。巻上と巻下で少し言い方が違う箇所があります。
現代の宿曜占星術での読み方
相手から見た関係は自分から見た関係と対になっていて、自分から見て「栄」の相手からは自分が「親」に、「安」の相手からは「壊」に見えます。 現代の解説ではこれを組にして「栄親」「友衰」「安壊」「危成」「業胎」と呼び、栄親を最良、安壊を最も注意が要る関係として、恋愛や仕事の相性に使うのが一般的です。 経の基準では、安・成・友・親の側から見れば「交わってよい」関係でも、相手の側から見ると壊・危・衰になるため、組にしたときの評価は経の文とは一致しません。当サイトの各宿のページでは、経の基準(栄・安・成・友・親)で印を付けています。
27宿の一覧
並びは経のとおり昴宿から始まり、胃宿で一周します。各ページでは、経に書かれた「この宿に生まれた人」「この宿の日に向くこと」の原文と訳、インド・中国の星座との対応、三九の秘法での関係を載せています。
昴宿
ぼうしゅく · クリッティカー昴は六つの星で、形は剃刀のよう。火の神の宿。
02 · 安重宿畢宿
ひっしゅく · ローヒニー畢は五つの星で、形は車を半分にしたよう。鉢闍鉢底神の宿。
03 · 和善宿觜宿
ししゅく · ムリガシラス觜は三つの星で、形は鹿の頭のよう。月の神の宿。
04 · 毒害宿参宿
さんしゅく · アールドラー参は一つの星で、形は額の上の点のよう。魯達羅神の宿。
05 · 軽躁宿井宿
せいしゅく · プナルヴァス井は二つの星で、形は家の梁のよう。日の神の宿。
06 · 急速宿鬼宿
きしゅく · プシュヤ鬼は三つの星で、形は瓶のよう。蘖利訶馺撥底神の宿。
07 · 毒害宿柳宿
りゅうしゅく · アーシュレーシャー柳は六つの星で、形は蛇のよう。
08 · 猛悪宿星宿
せいしゅく · マガー星は六つの星。
09 · 猛悪宿張宿
ちょうしゅく · プールヴァ・パールグニー張は二つの星で、形は杵のよう。婆藪神の宿。
10 · 安重宿翼宿
よくしゅく · ウッタラ・パールグニー翼は二つの星で、形は結跏趺坐のよう。利耶摩の宿。
11 · 急速宿軫宿
しんしゅく · ハスタ軫は五つの星で、形は手のよう。毘婆怛利神の宿。
12 · 和善宿角宿
かくしゅく · チトラー角は二つの星で、形は長い幢のよう。瑟室利神の宿。
13 · 軽躁宿亢宿
こうしゅく · スヴァーティー亢は一つの星で、形は火の玉のよう。風の神の宿。
14 · 剛柔宿氐宿
ていしゅく · ヴィシャーカー氐は四つの星で、形は牛の角のよう。因伽陀羅祇尼神の宿。
15 · 和善宿房宿
ぼうしゅく · アヌラーダー房は四つの星で、形は帳のよう。布密多羅神の宿。
16 · 毒害宿心宿
しんしゅく · ジェーシュター心は三つの星で、形は階段のよう。因陀羅神の宿。
17 · 毒害宿尾宿
びしゅく · ムーラ尾は二つの星で、形は獅子のたてがみのよう。儞律神の宿。
18 · 猛悪宿箕宿
きしゅく · プールヴァ・アーシャーダー箕は四つの星で、形は牛の足跡のよう。水の神の宿。
19 · 安重宿斗宿
としゅく · ウッタラ・アーシャーダー斗は四つの星で、形は象の足跡のよう。毘說神の宿。
20 · 軽躁宿女宿
じょしゅく · シュラヴァナ女は三つの星で、形は「梨格」のよう。毘藪幻神の宿。
21 · 軽躁宿虚宿
きょしゅく · ダニシュター虚は四つの星で、形は訶梨勒のよう。娑婆神の宿。
22 · 軽躁宿危宿
きしゅく · シャタビシャジ危は一つの星で、形は花の穂のよう。婆魯拏神の宿。
23 · 猛悪宿室宿
しつしゅく · プールヴァ・バードラパダー室は二つの星で、形は車の轅のよう。阿醯多陀難神の宿。
24 · 安重宿壁宿
へきしゅく · ウッタラ・バードラパダー壁は二つの星で、形は立てた竿のよう。尼陀羅神の宿。
25 · 和善宿奎宿
けいしゅく · レーヴァティー奎は三十二の星で、形は小舟のよう。甫涉神の宿。
26 · 急速宿婁宿
ろうしゅく · アシュヴィニー婁は三つの星で、形は馬の頭のよう。乾闥婆神の宿。
27 · 急速宿胃宿
いしゅく · バラニー胃は三つの星で、形は三角形。闍摩神の宿。
関連するページ
参考資料
- CBETA 中華電子佛典協會「文殊師利菩薩及諸仙所說吉凶時日善惡宿曜經(大正新脩大藏經 第21冊 No.1299)」 不空訳・楊景風注の本文。各宿の記述、七種の分類、三九の秘法、本命宿の求め方の引用はすべてこのテキストから写しています。
- 国立天文台 暦計算室「暦Wiki/二十八宿」 二十七宿には牛宿がないこと、旧暦各月の朔日の宿の表、貞享暦以降の暦注は二十八宿になったことの確認に使っています。
- 国立天文台 暦計算室「暦Wiki/インド暦/Naksatra」 ナクシャトラと漢訳の宿名の対応、黄道を13°20′ずつ27等分すること、牛宿=Abhijit(ベガ)の説明。
- 矢野道雄「『宿曜経』の大蔵経本と和本の比較(日本古写経研究所研究紀要 創刊号, 2016)」 空海が大同元年(806年)に宿曜経を請来したこと、二十七宿ではアビジット(中国の牛宿にあたる)を除くこと、源氏物語「桐壺」の宿曜の場面。
- Wikipedia 日本語版「宿曜道」 平安時代の宿曜道(空海・円仁・円珍による請来、法蔵、宿曜勘文、暦をめぐる暦道との争い、南北朝以後の衰退)の概要。記事は山下克明「宿曜道の形成と展開」(1996年)などを出典としています。
- Wikipedia 日本語版「二十八宿」 各宿の現代星座での位置と距星の一覧、森田龍僊『密教占星法』(1941年)への言及。
- Wikipedia 英語版「Nakshatra」 各ナクシャトラの名の意味、ヴェーダの神格、対応する星(Basham 1954 による)。
- 澎湃新闻「星占数术|《宿曜禄命勘文》:平安时期日本的星占文化(李铮)」 平安時代の宿曜勘文が、符天暦で計算した実際の月の位置から本命宿を定めていた例(天永3年生まれの人物の勘文)。
- 大久保占い研究室「宿曜占星術の本命宿の求め方|旧暦からの手計算3ステップと文献考証」 現代の占いサイトでの閏月の扱い(同じ数の月の朔日宿から数える)と、1986年10月19日生まれ=旧暦9月16日=畢宿という計算例。計算機の検算に使いました。