氐宿ていしゅく
氐宿は、宿曜経が昴宿から数える27宿の14番目の宿です。経は「氐は四つの星で、形は牛の角のよう。因伽陀羅祇尼神(インドラとアグニの音写)の宿」と説きます。 以下、経は宿曜経の本文と訳、現代は当サイトによる現代的な読み方です。
経氐宿に生まれた人
此宿生人,法合有分相、好供養天佛、心性解事,受性良善,承君王優寵、富饒財物、利智、足家口
器量に恵まれ、天や仏を供養することを好み、物事の道理がわかる。生まれつき善良で、君主の厚い寵愛を受け、財物に富み、頭の回転が速く、家族にも恵まれる。
- 分相
- 器量、人相
- 供養天佛
- 天の神々や仏を供養する
- 解事
- 物事をわきまえる
- 優寵
- 手厚い寵愛
経氐宿の日に向くこと
此宿直日,宜種蒔五穀菓木、醞酒,不宜起動房舍車馬之事
五穀や果樹の種まき、酒の仕込みに吉。家屋や車馬を動かす事には向かない。
経は各宿の日に衣を裁つとどうなるかも記しています。氐宿の日は「若用裁衣,多逢親識」——この日に衣を裁つと、親しい知人に多く会う。
巻下の吉凶暦では
氐宿,宜作農具,種大麥小麥稻粟等,并種蒔諸菓樹並吉。凡諸有大為作事並不可作,宜醞酒漿、宜種虋栽樹甘蔗等並吉
農具を作る、大麦・小麦・稲・粟や果樹を植えることに吉。大がかりな事業はすべて不可で、酒の仕込みや木・サトウキビの植え付けがよいとします。
経剛柔宿としての氐宿
経は27宿を性質で七種に分けています。氐宿は剛柔宿(ごうじゅうしゅく)で、 同じ組は昴宿です。 この組に生まれた人について経は「法合為性寬柔而猛,君子之人流也」(寛大で柔和でありながら強さもあり、君子の部類の人である)と書きます。
剛柔宿の日は、鍛冶、家具づくり、瓦焼き、売買、斎、葬送、乳製品の加工、家畜の勘定、入居、王の盟約などに向く。
経ほかの章に出てくる氐宿
七曜との組み合わせ
- 木曜日の氐宿は羅刹日 — 何事も始めてはならず、行えば必ず災いがあるとされる日
本命宿がわからない人の宿
巻上は、生まれた月日を覚えていない人が訪ねてきたら、その人が最初に触れた体の部位で宿を決めよ、と説きます。氐宿にあたるのは「胸」です。
若觸臆者則屬氐宿
七曜が犯すと災いがあるとされる宿
同じ章は、七曜(日・月と五惑星)が自分の命宿のほか、命宿から数えて4・10・13・16・20番目の宿に入ると災いがあるとします。氐宿生まれの場合は 事宿が室宿(災いを招く)、意宿が尾宿(憂いや苦しみが多い)、聚宿が畢宿(財を失い、囚われる)、同宿が鬼宿(家族が離れ、家が衰える)、克宿が婁宿(財や官職を失い、勢いが衰える)です。
経楊景風の注 — 中国の星座との違い
中國天文,氐四星,主侵害,東方之宿也
中国の天文でも氐は四星で、東方の宿。
出典:『宿曜経』巻上「宿曜暦経序日宿直所生品第二」(大正新脩大蔵経 第21巻 p.389c06–c11、CBETA のテキストによる)。現代語訳は当サイトによる大意です。
星空での位置と対応
- ナクシャトラ
- Viśākhā(ヴィシャーカー)— 名の意味は「枝分かれ」
- インドでの神格
- インドラとアグニ。経の「因伽陀羅祇尼」はインドラとアグニを並べた音写と見られ、一致します。
- 対応する星
- てんびん座α・β・γ・ι星
- 二十八宿として
- 和名は「ともぼし」。てんびん座にあたり、距星(宿の基準星)はてんびん座α星。東方青龍の七宿の一つ
- 十二宮への配当
- 秤宮3足・蝎宮1足(経の「分定宿直品第一」による。1宮を9足、1宿を4足に分ける)
ナクシャトラは黄道を13°20′ずつ27等分した区画で、中国の不等間隔な二十八宿とは同じ星を指すとは限りません。名の意味・神格・星は英語版 Wikipedia「Nakshatra」の一覧、距星は日本語版 Wikipedia「二十八宿」の表によります。
現代氐宿の読み方
インドではインドラとアグニの二神の宿、名は「枝分かれ」。経の神名「因伽陀羅祇尼」もこの二神を連ねた音写と見られます。人物描写は善良・信心・聡明・上からの引き立てと好意的な語が並び、昴宿と並ぶ二つだけの「剛柔宿」です。この宿の日は種まきや酒の仕込みのように、すぐ結果を求めず育てる事に向くとされます。現代的には、目上に信頼され、穏やかさの中に芯の強さを持つ人と読めます。
氐宿の日を今の暮らしに置き換えると
五穀や果樹の種まき、酒の仕込みに向き、大がかりな事業は不可とされる日。すぐに結果を求めない小さな仕込みや準備に向き、大きな決断は先送りにする日と読めます。
経の人物描写は唐代の暦占の言葉で、性格を断定するものではありません。この段落は当サイトが経の記述をもとに書いた解釈です。
氐宿から見た三九の秘法
自分の宿を「命」として27宿を順に数え、9宿ずつ三巡させたときの位置で関係を決めるのが三九の秘法です(しくみは一覧ページ)。 経は相手と交わるとき「栄・安・成・友・親を善とし、交わってよい。それ以外はみな悪い」としており、氐宿から見てこれにあたるのは15宿です。
色の付いた行が、経が「交わってよい」とする関係です。その宿の日に何をするとよいかや、現代の「栄親」「安壊」などの組み合わせでの読み方は一覧ページにまとめています。
氐宿生まれになる旧暦の日
本命宿は、旧暦の各月1日に決まった宿を置き、1日ごとに次の宿へ進めて決めます(閏月は同じ数の月と同じ)。氐宿にあたるのは次の日です。
- 正月19日
- 二月17日
- 三月15日
- 四月13日
- 五月11日
- 六月9日
- 七月6日
- 八月3日・30日
- 九月1日・28日
- 十月26日
- 十一月23日
- 十二月21日
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参考資料
- CBETA 中華電子佛典協會「文殊師利菩薩及諸仙所說吉凶時日善惡宿曜經(大正新脩大藏經 第21冊 No.1299)」 不空訳・楊景風注の本文。各宿の記述、七種の分類、三九の秘法、本命宿の求め方の引用はすべてこのテキストから写しています。
- 国立天文台 暦計算室「暦Wiki/インド暦/Naksatra」 ナクシャトラと漢訳の宿名の対応、黄道を13°20′ずつ27等分すること、牛宿=Abhijit(ベガ)の説明。
- 国立天文台 暦計算室「暦Wiki/二十八宿」 二十七宿には牛宿がないこと、旧暦各月の朔日の宿の表、貞享暦以降の暦注は二十八宿になったことの確認に使っています。
- Wikipedia 日本語版「二十八宿」 各宿の現代星座での位置と距星の一覧、森田龍僊『密教占星法』(1941年)への言及。
- Wikipedia 英語版「Nakshatra」 各ナクシャトラの名の意味、ヴェーダの神格、対応する星(Basham 1954 による)。