室宿しつしゅく
室宿は、宿曜経が昴宿から数える27宿の23番目の宿です。経は「室は二つの星で、形は車の轅(ながえ)のよう。阿醯多陀難神の宿」と説きます。 以下、経は宿曜経の本文と訳、現代は当サイトによる現代的な読み方です。
経室宿に生まれた人
此宿生人,法合決猛惡,性嗜嗔、愛劫奪、能夜行不怕慮,性輕燥毒害、無慈悲
決断が激しく荒々しい。怒りっぽく、奪うことを好み、夜道も恐れずに出歩く。軽はずみで人を害し、慈悲がない。
- 決猛惡
- 決断が荒々しい
- 劫奪
- 力ずくで奪う
- 夜行不怕慮
- 夜道を恐れない
- 輕燥
- 軽はずみ
経室宿の日に向くこと
此宿直日,宜為剛猛事,勘罪人、捕姦捉非。若為吉事,不宜
強い手段の要る事、罪人の取り調べ、悪人の捕縛に向く。めでたい事には向かない。
経は各宿の日に衣を裁つとどうなるかも記しています。室宿の日は「若用裁衣,必遭水厄」——この日に衣を裁つと、水難に遭う。
巻下の吉凶暦では
室宿,宜作端嚴事,勘逐罪非、除滅兇逆、誑詭敵人;諸事並不宜作
厳しく正す事、罪人の追及、凶悪の除去、敵を欺くことに向き、それ以外の事はみな行わない方がよいとします。巻上と同じく、吉事に用いない日です。
経猛悪宿としての室宿
経は27宿を性質で七種に分けています。室宿は猛悪宿(もうあくしゅく)で、 同じ組は星宿・張宿・箕宿です。 この組に生まれた人について経は「法合兇害猛殺,宜捨身出家作沙門」(荒々しく人を害しやすいので、出家して僧になるのがよい)と書きます。
猛悪宿の日は、道を守り要害を設ける、武器を作る、裁き、狩猟、天や神を祭ることなどに向くとされる。
経ほかの章に出てくる室宿
七曜との組み合わせ
経はその日の曜日(七曜)と宿の組み合わせで甘露日・金剛峯日・羅刹日を定めていますが、室宿はこのどれにも挙がっていません。
本命宿がわからない人の宿
巻上は、生まれた月日を覚えていない人が訪ねてきたら、その人が最初に触れた体の部位で宿を決めよ、と説きます。室宿にあたるのは「右の太もも」です。
若觸右腿髀者則屬室宿
七曜が犯すと災いがあるとされる宿
同じ章は、七曜(日・月と五惑星)が自分の命宿のほか、命宿から数えて4・10・13・16・20番目の宿に入ると災いがあるとします。室宿生まれの場合は 事宿が井宿(災いを招く)、意宿が婁宿(憂いや苦しみが多い)、聚宿が軫宿(財を失い、囚われる)、同宿が房宿(家族が離れ、家が衰える)、克宿が星宿(財や官職を失い、勢いが衰える)です。
経楊景風の注 — 中国の星座との違い
中國天文,室二星,主宗廟,北方之宿也
中国の天文でも室は二星(ペガススの四辺形の西辺)で、宗廟を司る北方の宿。
出典:『宿曜経』巻上「宿曜暦経序日宿直所生品第二」(大正新脩大蔵経 第21巻 p.390b12–b17、CBETA のテキストによる)。現代語訳は当サイトによる大意です。
星空での位置と対応
- ナクシャトラ
- Pūrvabhādrapadā(プールヴァ・バードラパダー)— 名の意味は「前の祝福された足」
- インドでの神格
- アジャ・エーカパーダ(一本足の山羊)。経は「阿醯多陀難」とし、一覧のアジャ・エーカパーダとの対応ははっきりしません。
- 対応する星
- ペガスス座α星・β星
- 二十八宿として
- 和名は「はついぼし」。ペガススの四辺形の西辺にあたり、距星(宿の基準星)はペガスス座α星。北方玄武の七宿の一つ
- 十二宮への配当
- 瓶宮3足・魚宮1足(経の「分定宿直品第一」による。1宮を9足、1宿を4足に分ける)
ナクシャトラは黄道を13°20′ずつ27等分した区画で、中国の不等間隔な二十八宿とは同じ星を指すとは限りません。名の意味・神格・星は英語版 Wikipedia「Nakshatra」の一覧、距星は日本語版 Wikipedia「二十八宿」の表によります。
現代室宿の読み方
経の人物描写は27宿の中で最も苛烈な一つで、この宿の日も取り調べや捕縛のような「剛猛の事」に向き、吉事には向かないとされます。ただ、これは千年以上前の暦の吉凶の言葉で、現代の性格判断としてそのまま受け取る必要はありません。言い換えれば、決断が速く、夜道も恐れない胆力があり、悪を見逃さない人。猛悪宿の記述が「出家して僧になるのがよい」と結ばれているように、強い気性を何に向けるかが問われる宿と読めます。
室宿の日を今の暮らしに置き換えると
罪人の取り調べや悪人の捕縛など、厳しく正す事にだけ向き、吉事には向かない日。祝い事は避け、不正や問題点の点検、溜まった懸案の整理に充てる日と読めます。
経の人物描写は唐代の暦占の言葉で、性格を断定するものではありません。この段落は当サイトが経の記述をもとに書いた解釈です。
室宿から見た三九の秘法
自分の宿を「命」として27宿を順に数え、9宿ずつ三巡させたときの位置で関係を決めるのが三九の秘法です(しくみは一覧ページ)。 経は相手と交わるとき「栄・安・成・友・親を善とし、交わってよい。それ以外はみな悪い」としており、室宿から見てこれにあたるのは15宿です。
色の付いた行が、経が「交わってよい」とする関係です。その宿の日に何をするとよいかや、現代の「栄親」「安壊」などの組み合わせでの読み方は一覧ページにまとめています。
室宿生まれになる旧暦の日
本命宿は、旧暦の各月1日に決まった宿を置き、1日ごとに次の宿へ進めて決めます(閏月は同じ数の月と同じ)。室宿にあたるのは次の日です。
- 正月1日・28日
- 二月26日
- 三月24日
- 四月22日
- 五月20日
- 六月18日
- 七月15日
- 八月12日
- 九月10日
- 十月8日
- 十一月5日
- 十二月3日・30日
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参考資料
- CBETA 中華電子佛典協會「文殊師利菩薩及諸仙所說吉凶時日善惡宿曜經(大正新脩大藏經 第21冊 No.1299)」 不空訳・楊景風注の本文。各宿の記述、七種の分類、三九の秘法、本命宿の求め方の引用はすべてこのテキストから写しています。
- 国立天文台 暦計算室「暦Wiki/インド暦/Naksatra」 ナクシャトラと漢訳の宿名の対応、黄道を13°20′ずつ27等分すること、牛宿=Abhijit(ベガ)の説明。
- 国立天文台 暦計算室「暦Wiki/二十八宿」 二十七宿には牛宿がないこと、旧暦各月の朔日の宿の表、貞享暦以降の暦注は二十八宿になったことの確認に使っています。
- Wikipedia 日本語版「二十八宿」 各宿の現代星座での位置と距星の一覧、森田龍僊『密教占星法』(1941年)への言及。
- Wikipedia 英語版「Nakshatra」 各ナクシャトラの名の意味、ヴェーダの神格、対応する星(Basham 1954 による)。