井宿せいしゅく
井宿は、宿曜経が昴宿から数える27宿の5番目の宿です。経は「井は二つの星で、形は家の梁のよう。日の神の宿」と説きます。 以下、経は宿曜経の本文と訳、現代は当サイトによる現代的な読み方です。
経井宿に生まれた人
此宿生人,法合錢財或有或無,情愛聲名、作人利官,縱有官厄還得解脫,受性饒病亦多男女
金回りは有ったり無かったりする。名声を好み、役人として勤めると利がある。役所がらみの災いに遭っても、また逃れられる。生まれつき病気がちだが、子は多い。
- 或有或無
- あったりなかったり
- 利官
- 官職に就くと利がある
- 官厄
- 役所がらみの災難
- 饒病
- 病気が多い
経井宿の日に向くこと
此宿直日,宜惠施貧窮必獲大果,凡有所作必得成就。又宜祭天、宜嫁娶納財。不宜合藥服食
貧しい人への施しは大きな果報をもたらし、何をしても成就する。天を祭る、嫁取り、財を納めることにも吉。薬の調合や服用には向かない。
経は各宿の日に衣を裁つとどうなるかも記しています。井宿の日は「若用裁衣,必相分離」——この日に衣を裁つと、別れることになる。
巻下の吉凶暦では
井宿,有所惠施必獲大果,有所置事必成就。宜作諸祭婆羅門、祭法天法,宜嫁娶及納婦人,必子息繁盛。此宿所作事皆成吉,唯不宜合藥服
施せば必ず大きな果報があり、始めた事は必ず成就する。婆羅門の祭りや天を祭る法に向き、嫁取りをすれば子孫が栄える。この宿の日にする事はみな吉となるが、薬の調合と服用だけは不可とします。
経軽躁宿(行宿)としての井宿
経は27宿を性質で七種に分けています。井宿は軽躁宿(行宿)(けいそうしゅく)で、 同じ組は亢宿・女宿・虚宿・危宿です。 この組に生まれた人について経は「法合澆薄,不然則質直平穩」(人情に薄い。そうでなければ、飾り気がなく穏やかである)と書きます。
軽躁宿(行宿)の日は、象や馬に乗る、舟で川を渡る、使者として遠方へ行く、礼楽、閲兵、種まき、酒造り、薬の調合など、動く事柄に向く。
経ほかの章に出てくる井宿
七曜との組み合わせ
- 木曜日の井宿は金剛峯日 — 魔や敵を降伏させる修法、日天子の真言、護摩など強い事によい日
本命宿がわからない人の宿
巻上は、生まれた月日を覚えていない人が訪ねてきたら、その人が最初に触れた体の部位で宿を決めよ、と説きます。井宿にあたるのは「両頬と耳」です。
若觸兩頰及耳者則屬井宿
七曜が犯すと災いがあるとされる宿
同じ章は、七曜(日・月と五惑星)が自分の命宿のほか、命宿から数えて4・10・13・16・20番目の宿に入ると災いがあるとします。井宿生まれの場合は 事宿が氐宿(災いを招く)、意宿が星宿(憂いや苦しみが多い)、聚宿が女宿(財を失い、囚われる)、同宿が壁宿(家族が離れ、家が衰える)、克宿が尾宿(財や官職を失い、勢いが衰える)です。
経楊景風の注 — 中国の星座との違い
中國天文,井八星,主天門,南方之宿也
中国の天文では井は八星で、南方の宿。
出典:『宿曜経』巻上「宿曜暦経序日宿直所生品第二」(大正新脩大蔵経 第21巻 p.389a05–a12、CBETA のテキストによる)。現代語訳は当サイトによる大意です。
星空での位置と対応
- ナクシャトラ
- Punarvasu(プナルヴァス)— 名の意味は「光の帰還」
- インドでの神格
- アディティ(神々の母)。経は「日神」とし、一覧のアディティ(太陽神群アーディティヤの母)とは言い方が異なります。
- 対応する星
- カストルとポルックス(ふたご座)
- 二十八宿として
- 和名は「ちちりぼし」。ふたご座南西部にあたり、距星(宿の基準星)はふたご座μ星。南方朱雀の七宿の一つ
- 十二宮への配当
- 婬宮3足・蟹宮1足(経の「分定宿直品第一」による。1宮を9足、1宿を4足に分ける)
ナクシャトラは黄道を13°20′ずつ27等分した区画で、中国の不等間隔な二十八宿とは同じ星を指すとは限りません。名の意味・神格・星は英語版 Wikipedia「Nakshatra」の一覧、距星は日本語版 Wikipedia「二十八宿」の表によります。
現代井宿の読み方
経の描写は「お金は出入りが激しい」「役所づとめに利がある」「災難に遭っても抜け出せる」と、浮き沈みと回復が対になっているのが特徴です。サンスクリット名が「光の帰還」と訳されることとも響き合います。この宿の日は「何をしても成就する」とされ、施しが大きな果報を生む日とされます。人物像としては、状況の波を受け流しながら立て直す、公の場で力を発揮する人と読めます。
井宿の日を今の暮らしに置き換えると
施しが大きな果報になり、何をしても成就するとされる日。寄付やお礼の品を贈る、ずっと始めたかったことに手をつける日として読めます。薬を新しく飲み始めるのは避ける日とされます。
経の人物描写は唐代の暦占の言葉で、性格を断定するものではありません。この段落は当サイトが経の記述をもとに書いた解釈です。
井宿から見た三九の秘法
自分の宿を「命」として27宿を順に数え、9宿ずつ三巡させたときの位置で関係を決めるのが三九の秘法です(しくみは一覧ページ)。 経は相手と交わるとき「栄・安・成・友・親を善とし、交わってよい。それ以外はみな悪い」としており、井宿から見てこれにあたるのは15宿です。
色の付いた行が、経が「交わってよい」とする関係です。その宿の日に何をするとよいかや、現代の「栄親」「安壊」などの組み合わせでの読み方は一覧ページにまとめています。
井宿生まれになる旧暦の日
本命宿は、旧暦の各月1日に決まった宿を置き、1日ごとに次の宿へ進めて決めます(閏月は同じ数の月と同じ)。井宿にあたるのは次の日です。
- 正月10日
- 二月8日
- 三月6日
- 四月4日
- 五月2日・29日
- 六月27日
- 七月24日
- 八月21日
- 九月19日
- 十月17日
- 十一月14日
- 十二月12日
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参考資料
- CBETA 中華電子佛典協會「文殊師利菩薩及諸仙所說吉凶時日善惡宿曜經(大正新脩大藏經 第21冊 No.1299)」 不空訳・楊景風注の本文。各宿の記述、七種の分類、三九の秘法、本命宿の求め方の引用はすべてこのテキストから写しています。
- 国立天文台 暦計算室「暦Wiki/インド暦/Naksatra」 ナクシャトラと漢訳の宿名の対応、黄道を13°20′ずつ27等分すること、牛宿=Abhijit(ベガ)の説明。
- 国立天文台 暦計算室「暦Wiki/二十八宿」 二十七宿には牛宿がないこと、旧暦各月の朔日の宿の表、貞享暦以降の暦注は二十八宿になったことの確認に使っています。
- Wikipedia 日本語版「二十八宿」 各宿の現代星座での位置と距星の一覧、森田龍僊『密教占星法』(1941年)への言及。
- Wikipedia 英語版「Nakshatra」 各ナクシャトラの名の意味、ヴェーダの神格、対応する星(Basham 1954 による)。