胃宿いしゅく
胃宿は、宿曜経が昴宿から数える27宿の27番目の宿です。経は「胃は三つの星で、形は三角形。闍摩神(ヤマの音写)の宿」と説きます。 以下、経は宿曜経の本文と訳、現代は当サイトによる現代的な読み方です。
経胃宿に生まれた人
此宿生人,法合膽硬、惡性靈、耽酒嗜肉、愛驅策劫奪強暴。稟志輕躁、足怨敵、饒男女、多僕從
肝がすわり、気性が荒い。酒と肉を好み、人を追い立て、力ずくで奪うことを好む。気質は軽はずみで、敵が多い。そのかわり子どもや従者は多い。
- 膽硬
- 肝がすわっている
- 驅策
- 人を追い立てて使う
- 怨敵
- かたき
- 輕躁
- 軽はずみ
経胃宿の日に向くこと
此宿直日,宜為公事及王侯修善事並吉。用剛猛伐逆取叛、除凶去姦非並吉
公の仕事、王侯が善い事を修めることに吉。強い手段で反逆を討ち、凶悪を除くことにも吉。
経は各宿の日に衣を裁つとどうなるかも記しています。胃宿の日は「若用裁衣,必損減資福」——この日に衣を裁つと、財と福が減る。
巻下の吉凶暦では
胃宿,宜為公事及王者之善事,亦宜作嚴整之事,伐逆除兇并調訓在下及馬等畜生並吉
公の事と王の善い事、厳しく整える事、反乱を討ち凶悪を除く事、目下の者や馬などの家畜を調教し訓練する事に吉とします。
経急速宿としての胃宿
経は27宿を性質で七種に分けています。胃宿は急速宿(きゅうそくしゅく)で、 同じ組は鬼宿・軫宿・婁宿です。 この組に生まれた人について経は「法合剛猛而捷疾,有筋力」(気性が強く、動きが素早く、体力がある)と書きます。
急速宿の日は、金の貸し借り、売買、旅立ち、家畜や鷹の調教、入学、服薬、灌頂など、すばやく済ませる事柄に向く。
経ほかの章に出てくる胃宿
七曜との組み合わせ
- 日曜日の胃宿は羅刹日 — 何事も始めてはならず、行えば必ず災いがあるとされる日
本命宿がわからない人の宿
巻上は、生まれた月日を覚えていない人が訪ねてきたら、その人が最初に触れた体の部位で宿を決めよ、と説きます。胃宿にあたるのは「足」です。
若觸脚者則屬胃宿
七曜が犯すと災いがあるとされる宿
同じ章は、七曜(日・月と五惑星)が自分の命宿のほか、命宿から数えて4・10・13・16・20番目の宿に入ると災いがあるとします。胃宿生まれの場合は 事宿が張宿(災いを招く)、意宿が觜宿(憂いや苦しみが多い)、聚宿が房宿(財を失い、囚われる)、同宿が斗宿(家族が離れ、家が衰える)、克宿が角宿(財や官職を失い、勢いが衰える)です。
経楊景風の注 — 中国の星座との違い
中國天文,胃三星,形如角,主兵軍,西方之宿也
中国の天文でも胃は三星で、兵や軍を司る西方の宿。
出典:『宿曜経』巻上「宿曜暦経序日宿直所生品第二」(大正新脩大蔵経 第21巻 p.390c09–c15、CBETA のテキストによる)。現代語訳は当サイトによる大意です。
星空での位置と対応
- ナクシャトラ
- Bharaṇī(バラニー)— 名の意味は「運ぶもの」
- インドでの神格
- ヤマ(死と法の神)。経の「闍摩」はヤマの音写で、一致します。
- 対応する星
- おひつじ座35・39・41番星
- 二十八宿として
- 和名は「えきえぼし」。おひつじ座東部にあたり、距星(宿の基準星)はおひつじ座35番星。西方白虎の七宿の一つ
- 十二宮への配当
- 羊宮4足(経の「分定宿直品第一」による。1宮を9足、1宿を4足に分ける)
ナクシャトラは黄道を13°20′ずつ27等分した区画で、中国の不等間隔な二十八宿とは同じ星を指すとは限りません。名の意味・神格・星は英語版 Wikipedia「Nakshatra」の一覧、距星は日本語版 Wikipedia「二十八宿」の表によります。
現代胃宿の読み方
死と法の神ヤマの宿で、経の人物像も度胸・荒い気性・敵の多さと、強さを前面に出した書き方です。それでも子や従者は多いとされ、人を引き連れる力は認められています。この宿の日は公務や、反逆を討ち凶悪を除くことに向くとされます。現代的には、押しが強く、勝負どころで怯まない行動派。敵を作りやすい自覚を持てば、人を率いる力が生きると読めます。27宿の最後の宿で、次は円環の最初の昴宿に戻ります。
胃宿の日を今の暮らしに置き換えると
公の事と、反乱を討ち凶悪を除く事、家畜の調教に向く日。公的な手続きや、部下や後輩の指導、悪い習慣を断つ決意に当てはめられます。
経の人物描写は唐代の暦占の言葉で、性格を断定するものではありません。この段落は当サイトが経の記述をもとに書いた解釈です。
胃宿から見た三九の秘法
自分の宿を「命」として27宿を順に数え、9宿ずつ三巡させたときの位置で関係を決めるのが三九の秘法です(しくみは一覧ページ)。 経は相手と交わるとき「栄・安・成・友・親を善とし、交わってよい。それ以外はみな悪い」としており、胃宿から見てこれにあたるのは15宿です。
色の付いた行が、経が「交わってよい」とする関係です。その宿の日に何をするとよいかや、現代の「栄親」「安壊」などの組み合わせでの読み方は一覧ページにまとめています。
胃宿生まれになる旧暦の日
本命宿は、旧暦の各月1日に決まった宿を置き、1日ごとに次の宿へ進めて決めます(閏月は同じ数の月と同じ)。胃宿にあたるのは次の日です。
- 正月5日
- 二月3日・30日
- 三月1日・28日
- 四月26日
- 五月24日
- 六月22日
- 七月19日
- 八月16日
- 九月14日
- 十月12日
- 十一月9日
- 十二月7日
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参考資料
- CBETA 中華電子佛典協會「文殊師利菩薩及諸仙所說吉凶時日善惡宿曜經(大正新脩大藏經 第21冊 No.1299)」 不空訳・楊景風注の本文。各宿の記述、七種の分類、三九の秘法、本命宿の求め方の引用はすべてこのテキストから写しています。
- 国立天文台 暦計算室「暦Wiki/インド暦/Naksatra」 ナクシャトラと漢訳の宿名の対応、黄道を13°20′ずつ27等分すること、牛宿=Abhijit(ベガ)の説明。
- 国立天文台 暦計算室「暦Wiki/二十八宿」 二十七宿には牛宿がないこと、旧暦各月の朔日の宿の表、貞享暦以降の暦注は二十八宿になったことの確認に使っています。
- Wikipedia 日本語版「二十八宿」 各宿の現代星座での位置と距星の一覧、森田龍僊『密教占星法』(1941年)への言及。
- Wikipedia 英語版「Nakshatra」 各ナクシャトラの名の意味、ヴェーダの神格、対応する星(Basham 1954 による)。