虚宿きょしゅく
虚宿は、宿曜経が昴宿から数える27宿の21番目の宿です。経は「虚は四つの星で、形は訶梨勒(薬用の実)のよう。娑婆神の宿」と説きます。 以下、経は宿曜経の本文と訳、現代は当サイトによる現代的な読み方です。
経虚宿に生まれた人
此宿生人,法合足穀、多貯積、長命富勝、蒙君王寵愛,又好響禱神廟、終身快樂、不合辛苦
穀物に恵まれ、蓄えが多く、長生きで富み栄える。君主の寵愛を受け、神廟での祈りを好む。一生楽しく暮らし、苦労をしない。
- 貯積
- 蓄え
- 富勝
- 富み栄える
- 寵愛
- 目上からかわいがられること
- 不合辛苦
- 苦労をしない定めである
経虚宿の日に向くこと
此宿直日,宜建急事、學問,及沐浴乞子法、供養婆羅門、置城邑、營兵馬,及初著新衣、嚴飾冠帶並吉
急ぎの事を始める、学問、沐浴や子授けの祈り、バラモンへの供養、町を築く、兵馬を整える、新しい衣を初めて着る、冠や帯で装うことに吉。
経は各宿の日に衣を裁つとどうなるかも記しています。虚宿の日は「若用裁衣,多得糧用」——この日に衣を裁つと、食糧に多く恵まれる。
巻下の吉凶暦では
虛宿,宜諸急速事,宜學問及夜浴、作求子法,其法不宜晝作
急ぎの事、学問、夜の沐浴、子授けの法に吉。子授けの法は昼に行ってはならないとします。さらに、婆羅門の供養、町や兵・官・財を置く、借りた財を返す、家畜を売る、衣や装身具を着ける、商い、新たに技芸を始めることを挙げます。
経軽躁宿(行宿)としての虚宿
経は27宿を性質で七種に分けています。虚宿は軽躁宿(行宿)(けいそうしゅく)で、 同じ組は井宿・亢宿・女宿・危宿です。 この組に生まれた人について経は「法合澆薄,不然則質直平穩」(人情に薄い。そうでなければ、飾り気がなく穏やかである)と書きます。
軽躁宿(行宿)の日は、象や馬に乗る、舟で川を渡る、使者として遠方へ行く、礼楽、閲兵、種まき、酒造り、薬の調合など、動く事柄に向く。
経ほかの章に出てくる虚宿
七曜との組み合わせ
経はその日の曜日(七曜)と宿の組み合わせで甘露日・金剛峯日・羅刹日を定めていますが、虚宿はこのどれにも挙がっていません。
本命宿がわからない人の宿
巻上は、生まれた月日を覚えていない人が訪ねてきたら、その人が最初に触れた体の部位で宿を決めよ、と説きます。虚宿にあたるのは「下腹」です。
若觸小膓下者則屬虛宿
七曜が犯すと災いがあるとされる宿
同じ章は、七曜(日・月と五惑星)が自分の命宿のほか、命宿から数えて4・10・13・16・20番目の宿に入ると災いがあるとします。虚宿生まれの場合は 事宿が觜宿(災いを招く)、意宿が壁宿(憂いや苦しみが多い)、聚宿が張宿(財を失い、囚われる)、同宿が亢宿(家族が離れ、家が衰える)、克宿が鬼宿(財や官職を失い、勢いが衰える)です。
経楊景風の注 — 中国の星座との違い
中國天文,虛二星,主宰相位,北方之宿也
中国の天文では虚は二星で、宰相の位を司る北方の宿。
出典:『宿曜経』巻上「宿曜暦経序日宿直所生品第二」(大正新脩大蔵経 第21巻 p.390a26–b05、CBETA のテキストによる)。現代語訳は当サイトによる大意です。
星空での位置と対応
- ナクシャトラ
- Dhaniṣṭhā(ダニシュター)— 名の意味は「最も富めるもの」
- インドでの神格
- ヴァス神群(八柱の神)。経は「娑婆神」とし、一覧ではヴァス神群とされます。
- 対応する星
- いるか座α〜δ星
- 二十八宿として
- 和名は「とみてぼし」。みずがめ座西部にあたり、距星(宿の基準星)はみずがめ座β星。北方玄武の七宿の一つ
- 十二宮への配当
- 磨竭宮2足・瓶宮2足(経の「分定宿直品第一」による。1宮を9足、1宿を4足に分ける)
ナクシャトラは黄道を13°20′ずつ27等分した区画で、中国の不等間隔な二十八宿とは同じ星を指すとは限りません。名の意味・神格・星は英語版 Wikipedia「Nakshatra」の一覧、距星は日本語版 Wikipedia「二十八宿」の表によります。
現代虚宿の読み方
サンスクリット名は「最も富めるもの」、経の人物像も穀物・蓄え・長寿・富・終生の楽しみと、豊かさの語で埋め尽くされています。「不合辛苦(苦労しない)」とまで書かれる宿は多くありません。中国の宿名「虚(からっぽ)」の字面とは逆の内容で、宿名だけで性格を判断しない方がよい好例です。現代的には、蓄える力と楽しむ力の両方を持ち、上からかわいがられる人と読めます。
虚宿の日を今の暮らしに置き換えると
学問、急ぎの事、子授けの祈り、新しい衣を着る、冠や帯で装う日。勉強の計画を立てる、改まった服で出かけるといった用事に重ねやすい日です。
経の人物描写は唐代の暦占の言葉で、性格を断定するものではありません。この段落は当サイトが経の記述をもとに書いた解釈です。
虚宿から見た三九の秘法
自分の宿を「命」として27宿を順に数え、9宿ずつ三巡させたときの位置で関係を決めるのが三九の秘法です(しくみは一覧ページ)。 経は相手と交わるとき「栄・安・成・友・親を善とし、交わってよい。それ以外はみな悪い」としており、虚宿から見てこれにあたるのは15宿です。
色の付いた行が、経が「交わってよい」とする関係です。その宿の日に何をするとよいかや、現代の「栄親」「安壊」などの組み合わせでの読み方は一覧ページにまとめています。
虚宿生まれになる旧暦の日
本命宿は、旧暦の各月1日に決まった宿を置き、1日ごとに次の宿へ進めて決めます(閏月は同じ数の月と同じ)。虚宿にあたるのは次の日です。
- 正月26日
- 二月24日
- 三月22日
- 四月20日
- 五月18日
- 六月16日
- 七月13日
- 八月10日
- 九月8日
- 十月6日
- 十一月3日・30日
- 十二月1日・28日
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参考資料
- CBETA 中華電子佛典協會「文殊師利菩薩及諸仙所說吉凶時日善惡宿曜經(大正新脩大藏經 第21冊 No.1299)」 不空訳・楊景風注の本文。各宿の記述、七種の分類、三九の秘法、本命宿の求め方の引用はすべてこのテキストから写しています。
- 国立天文台 暦計算室「暦Wiki/インド暦/Naksatra」 ナクシャトラと漢訳の宿名の対応、黄道を13°20′ずつ27等分すること、牛宿=Abhijit(ベガ)の説明。
- 国立天文台 暦計算室「暦Wiki/二十八宿」 二十七宿には牛宿がないこと、旧暦各月の朔日の宿の表、貞享暦以降の暦注は二十八宿になったことの確認に使っています。
- Wikipedia 日本語版「二十八宿」 各宿の現代星座での位置と距星の一覧、森田龍僊『密教占星法』(1941年)への言及。
- Wikipedia 英語版「Nakshatra」 各ナクシャトラの名の意味、ヴェーダの神格、対応する星(Basham 1954 による)。