婁宿ろうしゅく
婁宿は、宿曜経が昴宿から数える27宿の26番目の宿です。経は「婁は三つの星で、形は馬の頭のよう。乾闥婆神の宿」と説きます。 以下、経は宿曜経の本文と訳、現代は当サイトによる現代的な読み方です。
経婁宿に生まれた人
此宿生人,法合多技能、少疾病、妙解醫方。性好和合、布施,足田疇、多遊僕從,合事君王。受性勤公務、稟志慎密
多才で病が少なく、医術によく通じる。和を好み、施しをし、田畑に恵まれ、多くの従者を伴う。君主に仕えるのにふさわしく、公務に勤勉で、用心深い。
- 技能
- わざ、芸
- 醫方
- 医術、処方
- 和合
- 人と仲良くすること
- 僕從
- 従者
経婁宿の日に向くこと
此宿直日,宜為急速之事,合和服藥、內牛馬吉
急ぎの事、薬の調合と服用、牛馬を小屋に入れることに吉。
経は各宿の日に衣を裁つとどうなるかも記しています。婁宿の日は「若用裁衣,必增益衣服」——この日に衣を裁つと、衣服が増える。
巻下の吉凶暦では
婁宿,宜諸急速事,與藥、取藥、調乘象馬及出賣等並吉
急ぎの事、薬を人に与えまた手に入れる、象や馬を調教して乗る、物を売ることに吉とします。
行動禁閉法では、婁宿の日は南へ旅立ってはならず、吉時であっても行くなとされます。
経急速宿としての婁宿
経は27宿を性質で七種に分けています。婁宿は急速宿(きゅうそくしゅく)で、 同じ組は鬼宿・軫宿・胃宿です。 この組に生まれた人について経は「法合剛猛而捷疾,有筋力」(気性が強く、動きが素早く、体力がある)と書きます。
急速宿の日は、金の貸し借り、売買、旅立ち、家畜や鷹の調教、入学、服薬、灌頂など、すばやく済ませる事柄に向く。
経ほかの章に出てくる婁宿
七曜との組み合わせ
経はその日の曜日(七曜)と宿の組み合わせで甘露日・金剛峯日・羅刹日を定めていますが、婁宿はこのどれにも挙がっていません。
本命宿がわからない人の宿
巻上は、生まれた月日を覚えていない人が訪ねてきたら、その人が最初に触れた体の部位で宿を決めよ、と説きます。婁宿にあたるのは「すね」です。
若觸脛者則屬婁宿
七曜が犯すと災いがあるとされる宿
同じ章は、七曜(日・月と五惑星)が自分の命宿のほか、命宿から数えて4・10・13・16・20番目の宿に入ると災いがあるとします。婁宿生まれの場合は 事宿が星宿(災いを招く)、意宿が畢宿(憂いや苦しみが多い)、聚宿が氐宿(財を失い、囚われる)、同宿が箕宿(家族が離れ、家が衰える)、克宿が軫宿(財や官職を失い、勢いが衰える)です。
経楊景風の注 — 中国の星座との違い
中國天文,婁三星,主林苑,西方之宿也
中国の天文でも婁は三星で、林苑を司る西方の宿。
出典:『宿曜経』巻上「宿曜暦経序日宿直所生品第二」(大正新脩大蔵経 第21巻 p.390c03–c08、CBETA のテキストによる)。現代語訳は当サイトによる大意です。
星空での位置と対応
- ナクシャトラ
- Aśvinī(アシュヴィニー)— 名の意味は「騎手(アシュヴィン双神)」
- インドでの神格
- アシュヴィン双神(神々の医師)。経は乾闥婆(ガンダルヴァ)とし、一覧のアシュヴィン双神とは異なりますが、形を馬の頭とする点はアシュヴィンの馬と通じます。
- 対応する星
- おひつじ座β星・γ星
- 二十八宿として
- 和名は「たたらぼし」。おひつじ座西部にあたり、距星(宿の基準星)はおひつじ座β星。西方白虎の七宿の一つ
- 十二宮への配当
- 羊宮4足(経の「分定宿直品第一」による。1宮を9足、1宿を4足に分ける)
ナクシャトラは黄道を13°20′ずつ27等分した区画で、中国の不等間隔な二十八宿とは同じ星を指すとは限りません。名の意味・神格・星は英語版 Wikipedia「Nakshatra」の一覧、距星は日本語版 Wikipedia「二十八宿」の表によります。
現代婁宿の読み方
インドではナクシャトラの一番目、馬の頭をもつ医師の双神アシュヴィンの宿です。経の図像「形如馬頭」、人物像の「妙解医方(医術に通じる)」、この宿の日の「薬の調合」と、馬と医療の連想が東西でぴたりと重なります。人物像は多才・健康・和を好む・公務に勤勉と、実務家としての評価が高い宿。現代的には、手際よく人の役に立つ技術を持ち、組織の中で信頼される人と読めます。
婁宿の日を今の暮らしに置き換えると
急ぎの事、薬を与え受け取る、象や馬の調教、物を売る日。手早く済ませたい用事や、通院・薬の受け取り、不用品を売るといった用事に重ねやすい日です。巻下は南へ旅立つことを禁じています。
経の人物描写は唐代の暦占の言葉で、性格を断定するものではありません。この段落は当サイトが経の記述をもとに書いた解釈です。
婁宿から見た三九の秘法
自分の宿を「命」として27宿を順に数え、9宿ずつ三巡させたときの位置で関係を決めるのが三九の秘法です(しくみは一覧ページ)。 経は相手と交わるとき「栄・安・成・友・親を善とし、交わってよい。それ以外はみな悪い」としており、婁宿から見てこれにあたるのは15宿です。
色の付いた行が、経が「交わってよい」とする関係です。その宿の日に何をするとよいかや、現代の「栄親」「安壊」などの組み合わせでの読み方は一覧ページにまとめています。
婁宿生まれになる旧暦の日
本命宿は、旧暦の各月1日に決まった宿を置き、1日ごとに次の宿へ進めて決めます(閏月は同じ数の月と同じ)。婁宿にあたるのは次の日です。
- 正月4日
- 二月2日・29日
- 三月27日
- 四月25日
- 五月23日
- 六月21日
- 七月18日
- 八月15日
- 九月13日
- 十月11日
- 十一月8日
- 十二月6日
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参考資料
- CBETA 中華電子佛典協會「文殊師利菩薩及諸仙所說吉凶時日善惡宿曜經(大正新脩大藏經 第21冊 No.1299)」 不空訳・楊景風注の本文。各宿の記述、七種の分類、三九の秘法、本命宿の求め方の引用はすべてこのテキストから写しています。
- 国立天文台 暦計算室「暦Wiki/インド暦/Naksatra」 ナクシャトラと漢訳の宿名の対応、黄道を13°20′ずつ27等分すること、牛宿=Abhijit(ベガ)の説明。
- 国立天文台 暦計算室「暦Wiki/二十八宿」 二十七宿には牛宿がないこと、旧暦各月の朔日の宿の表、貞享暦以降の暦注は二十八宿になったことの確認に使っています。
- Wikipedia 日本語版「二十八宿」 各宿の現代星座での位置と距星の一覧、森田龍僊『密教占星法』(1941年)への言及。
- Wikipedia 英語版「Nakshatra」 各ナクシャトラの名の意味、ヴェーダの神格、対応する星(Basham 1954 による)。