箕宿きしゅく
箕宿は、宿曜経が昴宿から数える27宿の18番目の宿です。経は「箕は四つの星で、形は牛の足跡のよう。水の神の宿」と説きます。 以下、経は宿曜経の本文と訳、現代は当サイトによる現代的な読み方です。
経箕宿に生まれた人
此宿生人,法合遊涉江山
川や山を渡り歩く。(続く句は商いで利を得ることを言うと見られるが、字句に乱れがある。)辛苦に耐える人で、色を好み、病が多く、酒を好むとも記す。
- 遊涉江山
- 川や山を渡り歩く
- 耐辛苦
- 苦労に耐える
- 婬逸
- 色におぼれる
- 饒病
- 病気が多い
経箕宿の日に向くこと
此宿直日,宜穿地造舍、決渠開水、種花藥、修園圃、醞酒醬並吉
地を掘って家を建てる、水路を切り開いて水を通す、花や薬草を植える、庭や畑の手入れ、酒や醤の仕込みに吉。
経は各宿の日に衣を裁つとどうなるかも記しています。箕宿の日は「若用裁衣,後必得病」——この日に衣を裁つと、後で病になる。
巻下の吉凶暦では
箕宿,宜剛嚴事,又掘溝渠、穿池井、通決河流、種水生花及根實者、修園圃、醞酒漿,及作橋梁等並吉
強硬な事、溝を掘る、池や井戸を掘る、川の流れを通す、水生の花や根菜を植える、庭畑の手入れ、酒の仕込み、橋を架けることに吉。七種の分類の箇所でも、箕宿の日は井戸や水路の工事によいと重ねて書かれ、水の宿としての性格がはっきりしています。
経猛悪宿としての箕宿
経は27宿を性質で七種に分けています。箕宿は猛悪宿(もうあくしゅく)で、 同じ組は星宿・張宿・室宿です。 この組に生まれた人について経は「法合兇害猛殺,宜捨身出家作沙門」(荒々しく人を害しやすいので、出家して僧になるのがよい)と書きます。
猛悪宿の日は、道を守り要害を設ける、武器を作る、裁き、狩猟、天や神を祭ることなどに向くとされる。
経ほかの章に出てくる箕宿
七曜との組み合わせ
経はその日の曜日(七曜)と宿の組み合わせで甘露日・金剛峯日・羅刹日を定めていますが、箕宿はこのどれにも挙がっていません。
本命宿がわからない人の宿
巻上は、生まれた月日を覚えていない人が訪ねてきたら、その人が最初に触れた体の部位で宿を決めよ、と説きます。箕宿にあたるのは「右の脇腹」です。
若觸右脅者則屬箕宿
七曜が犯すと災いがあるとされる宿
同じ章は、七曜(日・月と五惑星)が自分の命宿のほか、命宿から数えて4・10・13・16・20番目の宿に入ると災いがあるとします。箕宿生まれの場合は 事宿が胃宿(災いを招く)、意宿が虚宿(憂いや苦しみが多い)、聚宿が鬼宿(財を失い、囚われる)、同宿が翼宿(家族が離れ、家が衰える)、克宿が觜宿(財や官職を失い、勢いが衰える)です。
経楊景風の注 — 中国の星座との違い
中國天文,箕四星,主妃后,東方之宿也
中国の天文でも箕は四星で、后妃を司る東方の宿。
出典:『宿曜経』巻上「宿曜暦経序日宿直所生品第二」(大正新脩大蔵経 第21巻 p.390a02–a07、CBETA のテキストによる)。現代語訳は当サイトによる大意です。
星空での位置と対応
- ナクシャトラ
- Pūrvāṣāḍhā(プールヴァ・アーシャーダー)— 名の意味は「前の不敗のもの」
- インドでの神格
- アーパス(水)。経の「水神」はアーパス(水)にあたり、一致します。
- 対応する星
- いて座δ星・ε星
- 二十八宿として
- 和名は「みぼし」。いて座南部にあたり、距星(宿の基準星)はいて座γ星。東方青龍の七宿の一つ
- 十二宮への配当
- 弓宮4足(経の「分定宿直品第一」による。1宮を9足、1宿を4足に分ける)
ナクシャトラは黄道を13°20′ずつ27等分した区画で、中国の不等間隔な二十八宿とは同じ星を指すとは限りません。名の意味・神格・星は英語版 Wikipedia「Nakshatra」の一覧、距星は日本語版 Wikipedia「二十八宿」の表によります。
現代箕宿の読み方
水の神の宿で、インド側でも水(アーパス)が神格とされ、両者が一致する宿です。この宿の日には水路を開いて水を通す事や酒・醤の仕込みが挙がり、水の宿らしさが際立ちます。人物像は、川や山を渡り歩き、苦労に耐える一方、酒色を好み病が多いと、放浪と快楽の両面で描かれます。現代的には、各地を動き回って経験を積み、苦労を苦労と思わない粘り強さを持つ人。健康と嗜好品の加減が課題になる、と読めます。
箕宿の日を今の暮らしに置き換えると
地を掘る、水路を開く、花や薬草を植える、酒や醤を仕込む日。庭や水回りの手入れ、漬物や保存食づくりなど、水と土に関わる用事に重ねやすい日です。
経の人物描写は唐代の暦占の言葉で、性格を断定するものではありません。この段落は当サイトが経の記述をもとに書いた解釈です。
箕宿から見た三九の秘法
自分の宿を「命」として27宿を順に数え、9宿ずつ三巡させたときの位置で関係を決めるのが三九の秘法です(しくみは一覧ページ)。 経は相手と交わるとき「栄・安・成・友・親を善とし、交わってよい。それ以外はみな悪い」としており、箕宿から見てこれにあたるのは15宿です。
色の付いた行が、経が「交わってよい」とする関係です。その宿の日に何をするとよいかや、現代の「栄親」「安壊」などの組み合わせでの読み方は一覧ページにまとめています。
箕宿生まれになる旧暦の日
本命宿は、旧暦の各月1日に決まった宿を置き、1日ごとに次の宿へ進めて決めます(閏月は同じ数の月と同じ)。箕宿にあたるのは次の日です。
- 正月23日
- 二月21日
- 三月19日
- 四月17日
- 五月15日
- 六月13日
- 七月10日
- 八月7日
- 九月5日
- 十月3日・30日
- 十一月27日
- 十二月25日
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参考資料
- CBETA 中華電子佛典協會「文殊師利菩薩及諸仙所說吉凶時日善惡宿曜經(大正新脩大藏經 第21冊 No.1299)」 不空訳・楊景風注の本文。各宿の記述、七種の分類、三九の秘法、本命宿の求め方の引用はすべてこのテキストから写しています。
- 国立天文台 暦計算室「暦Wiki/インド暦/Naksatra」 ナクシャトラと漢訳の宿名の対応、黄道を13°20′ずつ27等分すること、牛宿=Abhijit(ベガ)の説明。
- 国立天文台 暦計算室「暦Wiki/二十八宿」 二十七宿には牛宿がないこと、旧暦各月の朔日の宿の表、貞享暦以降の暦注は二十八宿になったことの確認に使っています。
- Wikipedia 日本語版「二十八宿」 各宿の現代星座での位置と距星の一覧、森田龍僊『密教占星法』(1941年)への言及。
- Wikipedia 英語版「Nakshatra」 各ナクシャトラの名の意味、ヴェーダの神格、対応する星(Basham 1954 による)。