軫宿しんしゅく
軫宿は、宿曜経が昴宿から数える27宿の11番目の宿です。経は「軫は五つの星で、形は手のよう。毘婆怛利神の宿」と説きます。 以下、経は宿曜経の本文と訳、現代は当サイトによる現代的な読み方です。
経軫宿に生まれた人
此宿生人,法合有諸寶物業,合遊歷州縣。稟姓嫉妬、為人少病,能立功德兼愛車乘
さまざまな宝物を扱う生業を持ち、諸国を巡り歩く。生まれつき嫉妬深いが、病は少ない。功徳を積むことができ、車や乗り物を好む。
- 寶物業
- 宝物を扱う仕事
- 遊歷州縣
- 諸国を巡り歩く
- 稟姓
- 生まれつきの性質(「姓」は「性」に通じる)
- 車乘
- 車や乗り物
経軫宿の日に向くこと
此宿直日,宜急速事,遠行外國、修理衣裳、學藝業、婚娶、開園圃並吉
急ぎの事、遠く外国へ旅立つ、衣服の繕い、芸や技を学ぶ、婚礼、庭や畑を開くことに吉。
巻下の吉凶暦では
軫宿,宜諸急速事,遠行向外國、修理鬢髮、取象調象乘象、學伎藝、求女人、嫁娶、服著衣裳、穿池修園圃、造垣牆等吉,除蕩竊逆南行大吉
急ぎの事、外国への遠出、髪を整える、象を捕らえて調教し乗る、技芸を学ぶ、妻を求める・婚礼、衣を着る、池を掘り庭や畑を整える、垣を造ることに吉。盗賊や反逆を掃討し、南へ行くのは大吉とします。
一方で行動禁閉法では、軫宿の日に北へ旅立ってはならず、吉時であっても行くなとされます。
経急速宿としての軫宿
経は27宿を性質で七種に分けています。軫宿は急速宿(きゅうそくしゅく)で、 同じ組は鬼宿・胃宿・婁宿です。 この組に生まれた人について経は「法合剛猛而捷疾,有筋力」(気性が強く、動きが素早く、体力がある)と書きます。
急速宿の日は、金の貸し借り、売買、旅立ち、家畜や鷹の調教、入学、服薬、灌頂など、すばやく済ませる事柄に向く。
経ほかの章に出てくる軫宿
七曜との組み合わせ
- 日曜日の軫宿は甘露日 — 大吉祥の日。即位や灌頂、寺の建立、受戒、経を学ぶ、出家修道によい
本命宿がわからない人の宿
巻上は、生まれた月日を覚えていない人が訪ねてきたら、その人が最初に触れた体の部位で宿を決めよ、と説きます。軫宿にあたるのは「手」です。
若觸手者則屬軫宿
七曜が犯すと災いがあるとされる宿
同じ章は、七曜(日・月と五惑星)が自分の命宿のほか、命宿から数えて4・10・13・16・20番目の宿に入ると災いがあるとします。軫宿生まれの場合は 事宿が女宿(災いを招く)、意宿が氐宿(憂いや苦しみが多い)、聚宿が婁宿(財を失い、囚われる)、同宿が觜宿(家族が離れ、家が衰える)、克宿が室宿(財や官職を失い、勢いが衰える)です。
経楊景風の注 — 中国の星座との違い
中國天文,軫四星,主車乘騎,南方之宿也
中国の天文では軫は四星で、車や騎乗を司る南方の宿。経の人物像の「車乗を愛す」と符合する。
出典:『宿曜経』巻上「宿曜暦経序日宿直所生品第二」(大正新脩大蔵経 第21巻 p.389b17–b22、CBETA のテキストによる)。現代語訳は当サイトによる大意です。
星空での位置と対応
- ナクシャトラ
- Hasta(ハスタ)— 名の意味は「手」
- インドでの神格
- サヴィトリ(太陽神)。経は「毘婆怛利」とし、一覧ではサヴィトリとされます。
- 対応する星
- からす座α〜ε星
- 二十八宿として
- 和名は「みつかけぼし」。からす座にあたり、距星(宿の基準星)はからす座γ星。南方朱雀の七宿の一つ
- 十二宮への配当
- 女宮4足(経の「分定宿直品第一」による。1宮を9足、1宿を4足に分ける)
ナクシャトラは黄道を13°20′ずつ27等分した区画で、中国の不等間隔な二十八宿とは同じ星を指すとは限りません。名の意味・神格・星は英語版 Wikipedia「Nakshatra」の一覧、距星は日本語版 Wikipedia「二十八宿」の表によります。
現代軫宿の読み方
サンスクリット名ハスタは「手」、経でも「形如手(手の形)」。ナクシャトラ名と経の図像がそのまま一致する宿です。人物像は、宝物を扱う商い・各地への旅・乗り物好きと、移動と交易の色が濃く、この宿の日も遠出や技芸の習得に向くとされます。現代的には、手を動かして身につけた技を持ち、それを携えてどこへでも出かけていける人。嫉妬深さが書かれている点は、他人の成果が気になりやすい性分と言い換えられます。
軫宿の日を今の暮らしに置き換えると
急ぎの事、外国への遠出、技芸の習得、婚礼に向く日。旅行の出発や、短期集中で何かを習い始める日に当てはめられます。巻下は北へ旅立つことだけを禁じています。
経の人物描写は唐代の暦占の言葉で、性格を断定するものではありません。この段落は当サイトが経の記述をもとに書いた解釈です。
軫宿から見た三九の秘法
自分の宿を「命」として27宿を順に数え、9宿ずつ三巡させたときの位置で関係を決めるのが三九の秘法です(しくみは一覧ページ)。 経は相手と交わるとき「栄・安・成・友・親を善とし、交わってよい。それ以外はみな悪い」としており、軫宿から見てこれにあたるのは15宿です。
色の付いた行が、経が「交わってよい」とする関係です。その宿の日に何をするとよいかや、現代の「栄親」「安壊」などの組み合わせでの読み方は一覧ページにまとめています。
軫宿生まれになる旧暦の日
本命宿は、旧暦の各月1日に決まった宿を置き、1日ごとに次の宿へ進めて決めます(閏月は同じ数の月と同じ)。軫宿にあたるのは次の日です。
- 正月16日
- 二月14日
- 三月12日
- 四月10日
- 五月8日
- 六月6日
- 七月3日・30日
- 八月27日
- 九月25日
- 十月23日
- 十一月20日
- 十二月18日
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参考資料
- CBETA 中華電子佛典協會「文殊師利菩薩及諸仙所說吉凶時日善惡宿曜經(大正新脩大藏經 第21冊 No.1299)」 不空訳・楊景風注の本文。各宿の記述、七種の分類、三九の秘法、本命宿の求め方の引用はすべてこのテキストから写しています。
- 国立天文台 暦計算室「暦Wiki/インド暦/Naksatra」 ナクシャトラと漢訳の宿名の対応、黄道を13°20′ずつ27等分すること、牛宿=Abhijit(ベガ)の説明。
- 国立天文台 暦計算室「暦Wiki/二十八宿」 二十七宿には牛宿がないこと、旧暦各月の朔日の宿の表、貞享暦以降の暦注は二十八宿になったことの確認に使っています。
- Wikipedia 日本語版「二十八宿」 各宿の現代星座での位置と距星の一覧、森田龍僊『密教占星法』(1941年)への言及。
- Wikipedia 英語版「Nakshatra」 各ナクシャトラの名の意味、ヴェーダの神格、対応する星(Basham 1954 による)。