夢日記の書き方 ― 記入例とHall/Van de Castle式の数え方、フロイトから明晰夢研究まで
この記事のポイント
夢日記は何をどの順で書けばよいのか。起きてすぐの書き方、そのまま使える記入テンプレートと記入例、心理学者ホールとヴァン・デ・キャッスルの内容分析をまねた数え方、フロイト・ユング・ホブソン・ラバージの立場の違い、続けるときの注意点を紹介します。
夢日記を始めた人がまずつまずくのは、「何をどこまで書けばいいのか」と「書いたあと何をすればいいのか」の2点です。この記事では、そのまま写して使える記入テンプレートと記入例を示し、書いた夢を心理学の内容分析のやり方で数えてみるところまでを具体的に紹介します。夢の意味を昔の夢解きの本がどう読んできたかは、夢占いの原典をたどる記事で扱っています。
目が覚めてから最初の数分で書く
夢の記憶は、起きて体を動かしたり、ほかのことを考えたりするうちに急速に薄れます。書き方の工夫の多くは、この短い時間をどう使うかに関わっています。
- 枕元に紙とペンを置いておく。 スマートフォンでもかまいませんが、通知や画面の明るさで頭が切り替わりやすいので、手書きのノートを好む人も多くいます。
- 目が覚めたら、姿勢を変える前に夢を思い返す。 最後の場面から逆向きにたどると、前の場面を思い出しやすくなります。
- 単語だけでも先に書き出す。 人物、場所、印象に残った物、そのとき感じたことを、文章にする前にメモします。
- あとから文章にする。 現在形で「〜にいる」「〜が来る」と書くと、場面がよみがえりやすくなります。
- 最後に、前日の出来事とのつながりを書き足す。 意味づけはこの段階でも急がず、「思い当たること」として別の欄に書きます。
夢を思い出せない日は、「覚えていない」「目覚めたときの気分だけ」と書いておくだけでも記録になります。
記入テンプレートと記入例
テンプレート
| 欄 | 書くこと |
|---|---|
| 日付・起床時刻 | 夜中に目が覚めて書いた場合はその時刻も |
| タイトル | 夢全体をひとことで |
| 本文 | 現在形で、覚えている順に |
| 登場人物 | 知っている人/知らない人、性別、おおよその年齢 |
| 場所 | 屋内か屋外か、知っている場所か、知っている場所が変形していたか |
| 夢の中の感情 | 夢の中で実際に感じたこと(起きてからの感想とは分ける) |
| 起きたときの気分 | すっきり、不安、など |
| 思い当たること | 前日の出来事、気になっていること、最近見た映像や本 |
記入例
10月17日(土)6:40起床 タイトル:実家の階段と海の見える窓
昔住んでいた実家の台所にいる。知らない男の人が勝手口から入ってきて、こちらに向かってくるので、怖くなって階段を駆け上がる。2階の廊下に高校の同級生のAさんがいて、私の手を引いて押し入れに隠してくれる。押し入れのすき間から外を見ると、窓の向こうがなぜか海になっていて、不思議に思う。男の人の足音が遠ざかり、ほっとしたところで目が覚める。
- 登場人物:知らない男性(大人)、Aさん(女性・同級生)
- 場所:実家(屋内)。ただし窓の外が海で、実際の実家とは違う
- 夢の中の感情:怖い → 不思議 → ほっとした
- 起きたときの気分:少し疲れている
- 思い当たること:前日、職場で急な仕事を頼まれた。Aさんとは何年も会っていない。寝る前に海の動画を見た
この例はわかりやすさのために作ったものです。記録を何週間か続けると、「知らない人に追われる」「建物の中で上へ逃げる」のように、繰り返し出てくる要素が見えてきます。
Hall/Van de Castle式に数えてみる
アメリカの心理学者カルヴィン・ホールとロバート・ヴァン・デ・キャッスルは、『夢の内容分析(The Content Analysis of Dreams)』(1966年)で、夢の報告を決まった規則で分類し、数として比べる方法をまとめました。一つひとつの夢に意味を与えるのではなく、たくさんの夢の中で何がどのくらいの割合で現れるかを見る方法です。現在もカリフォルニア大学サンタクルーズ校のサイト(dreamresearch.net)で、分類の規則と記号が公開されています。
本来の規則はかなり細かいのですが、ここでは主な分類だけを使って、上の記入例を記号にしてみます。
| 分類 | 記入例での該当箇所 | 記号 |
|---|---|---|
| 登場人物 | 知らない男性・大人1人 | 1MSA(1人・男性・見知らぬ人・大人) |
| 登場人物 | Aさん・女性・知人 | 1FKA(1人・女性・知人・大人) |
| 場所 | 実家の台所と2階 | I(屋内)、D(知っている場所が変形している) |
| 攻撃的なやりとり | 男性に追いかけられる | A6(追跡・拘束にあたる身体的な攻撃) |
| 友好的なやりとり | Aさんが手を引いて隠してくれる | F4(助ける・守る) |
| 感情 | 怖くなる/不思議に思う/ほっとする | AP(不安・恐れ)、CO(戸惑い)、HA(喜び・安心) |
この方式では、感情を5つ(怒り AN、不安・恐れ AP、悲しみ SD、戸惑い CO、喜び HA)に分けます。大事な規則は、夢の中で本人が感じたと書かれた感情だけを数える ことです。「追いかけられていたのだから怖かったはず」と推測して記号を付けてはいけません。夢日記で「夢の中の感情」と「起きたときの気分」を分けておくと、この区別がしやすくなります。
1か月分ほどたまったら、「登場人物のうち知らない人は何割か」「攻撃的なやりとりと友好的なやりとりのどちらが多いか」「場所は屋内と屋外のどちらが多いか」を数えてみます。一晩の夢の解釈よりも、こうした割合の変化のほうが、自分の生活や気がかりとのつながりを落ち着いて見るのに役立ちます。
5つの立場で、同じ記録の何を見るか
同じ夢日記でも、どの立場から読むかで注目する欄が変わります。
| 立場 | 主な人物・文献 | 夢をどう見るか | 日記で注目するところ |
|---|---|---|---|
| 精神分析 | フロイト『夢判断』(1900年) | 抑圧された願望が形を変えて現れたもの | 本文の細部と、そこから浮かぶ自由連想 |
| 分析心理学 | ユング | 心の偏りを補う働き、元型の表れ | 繰り返し出てくる象徴的な人物やイメージ |
| 内容分析 | ホールとヴァン・デ・キャッスル(1966年) | 数えて比べられる心理的なデータ | 登場人物・場所・やりとり・感情の割合 |
| 神経科学 | ホブソンとマッカーリー(1977年) | レム睡眠中の脳幹の活動を、大脳が物語にまとめたもの | 奇妙さ、場面の飛び方、感覚の強さ |
| 明晰夢研究 | ラバージ(1980年代) | 訓練で「夢だと気づく」ことができる意識状態 | 「夢のサイン」になりやすい、繰り返し現れる不自然な要素 |
フロイトは、夢の表に現れた内容(顕在内容)の背後に隠れた内容(潜在内容)があると考え、自由連想でそれをたどろうとしました。ユングはフロイトの協力者から出発しましたが、やがて夢を欲望の偽装ではなく、意識の偏りを補おうとする心の働きとして読むようになります。夢に現れる偶然の一致についての考え方は、共時性の解説も参考にしてください。
アラン・ホブソンとロバート・マッカーリーは、1977年に『American Journal of Psychiatry』誌で「活性化-合成仮説」を発表しました。レム睡眠中に脳幹から送られる信号を、大脳が記憶と照らし合わせて物語に仕立てたものが夢だ、という説明で、夢には隠された意味があるとするフロイトの考え方に正面から異を唱えるものでした。
明晰夢を目指すなら:夢のサインとMILD
夢の中で「これは夢だ」と気づく体験を明晰夢と呼びます。スティーヴン・ラバージはスタンフォード大学で、明晰夢を見ている人が、あらかじめ決めておいた目の動きで合図を送り、それが睡眠中の眼球運動の記録に現れることを示しました。同様の実験は、イギリスのキース・ハーンも1970年代に行っています。
ラバージが1980年に報告した MILD(明晰夢の記憶誘導法)は、夢から覚めたときにその夢を思い返し、「次に夢を見たら夢だと気づく」と意図を固めてから眠りに戻る方法です。日中に「いま夢を見ていないか」を確かめる「リアリティ・チェック」と組み合わせて紹介されることも多くあります。夢日記はここで、自分の夢によく出てくる不自然な要素(「夢のサイン」)を見つけるための資料になります。記入例なら「実家にいる」「窓の外が海」が候補です。
ただし、2012年に発表された系統的レビュー(Stumbrysら)は、35件の研究を検討したうえで、どの方法も明晰夢を確実に起こせるとは確かめられていないと結論しています。うまくいかなくても、それが普通だと考えてください。
「当たった夢」の記録の扱い方
夢日記を続けていると、夢と翌日の出来事が一致したように感じることがあります。そうした体験を書き留めるのはかまいませんが、記録を読み返すときは、一致しなかった夢の数も一緒に数えると、印象に引きずられずにすみます。夢日記を「自分が何に注意を向けているかを映す記録」として扱うと、偶然の一致も落ち着いて眺められます。
続けるときの注意点
記録を続けると、夢を思い出す回数そのものが増えることがあります。楽しい夢だけでなく、怖い夢も覚えている回数が増えるということです。書くことが負担に感じられたら、毎日ではなく週に数日にする、悪夢の日は短いメモだけにする、といった調整をしてください。
同じ悪夢を繰り返し見る、眠るのが怖い、つらい体験が夢に何度も出てきて日中の生活にも響いている、という場合は、夢日記で解決しようとせず、睡眠外来や精神科・心療内科などの専門家に相談してください。この記事で紹介した方法は、セルフケアや趣味としての記録の工夫であり、治療ではありません。
よくある質問
夢をまったく覚えていません。どうすればよいですか?
夢を思い出す頻度には個人差が大きく、444人を対象にしたドイツの調査(Schredlら、2003年)では、夢への関心の強さや夜中に目が覚める回数などが関係していましたが、どの要因の影響も小さいものでした。まずは睡眠時間を十分にとり、起きたときに少しのあいだ目を閉じたまま思い返す習慣をつけてみてください。覚えていない日も「覚えていない」と書いておけば、思い出せた日との違いが見えてきます。
フロイト流とユング流、どちらで読めばよいですか?
どちらか一つに決める必要はありません。記入例のように、本文・登場人物・感情・思い当たることを分けて書いておけば、細部の連想をたどるフロイト流の読みも、繰り返し現れるイメージに注目するユング流の読みも、あとから同じ記録で試せます。
関連ページ
参考文献
- Sigmund Freud『Die Traumdeutung』1900(英訳 A. A. Brill『The Interpretation of Dreams』、Project Gutenberg) https://www.gutenberg.org/ebooks/66048
- Calvin S. Hall, Robert L. Van de Castle『The Content Analysis of Dreams』Appleton-Century-Crofts, 1966
- 「Coding Rules for the Hall/Van de Castle System of Quantitative Dream Content Analysis」dreamresearch.net(UC Santa Cruz) https://dreams.ucsc.edu/Coding/
- J. Allan Hobson, Robert W. McCarley「The brain as a dream state generator: an activation-synthesis hypothesis of the dream process」American Journal of Psychiatry 134(12): 1335–1348, 1977 https://doi.org/10.1176/ajp.134.12.1335
- Stephen LaBerge「Lucid dreaming as a learnable skill: A case study」Perceptual and Motor Skills 51: 1039–1042, 1980
- Tadas Stumbrys ほか「Induction of lucid dreams: a systematic review of evidence」Consciousness and Cognition 21(3): 1456–1475, 2012 https://doi.org/10.1016/j.concog.2012.07.003
- Michael Schredl ほか「Factors of home dream recall: a structural equation model」Journal of Sleep Research 12(2): 133–141, 2003 https://doi.org/10.1046/j.1365-2869.2003.00344.x
この記事について
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