ᛇEihwaz (ユル)
イチイの木
イチイを名に持つルーン。何の音を表していたのかがはっきりしない、24文字の中でもとりわけ謎の多い文字です。
名前・音・のちの文字
- 復元名(推定)
- *īhwaz / *īwaz 「イチイ(常緑の針葉樹)」
- 音
- 不明(前舌母音。/æː/、/ɨ/ などの説)
- 英国のフソルク
- ᛇ ēoh(イチイ)
- 北欧のヤンガー・フサルク
- なし(16文字への整理で廃止)
「*」は文献に直接残っていない、言語学上の復元形であることを示します。
古ゲルマン語では *īhaz と *īwaz の2形が復元され、よく見る綴り Eihwaz はその両方を混ぜたものです(英語の yew は *īwaz の系統)。音価については /æː/、/ɨ/、/ç/ などの説が並び、転写には慣例で ï が使われます。175〜400年ごろの最初期の碑文には現れず、キュルヴェル石の文字列が最初の確かな例です。
ヤンガー・フサルクにはこの字形は残りませんでしたが、「イチイ」という名は ᛦ(ýr)に引き継がれました。ᛦ は形と音を ᛉ(Algiz)から受け継ぎ、名前だけをこのルーンからもらった文字です。そのためノルウェーとアイスランドの詩の「イチイ」の節は、形の上では別のルーンについて詠んだものです。
ルーン詩に詠まれたEihwaz
イチイは樹皮の粗い木。大地にしっかりと固く立ち、根に支えられ、炎の守り手であり、領地の喜びである。
Eoh bẏþ utan unsmeþe treoƿ, / heard hrusan fæst, hẏrde fẏres, / ƿẏrtrumun underƿreþẏd, ƿẏn on eþle.
イチイは冬に最も青々とした木。燃やすとぱちぱちと音を立てる。
イチイ——張った弓、もろい鉄、矢の巨人。
Ýr er bendr bogi / ok brotgjarnt járn / ok fífu fárbauti.
北欧の2詩の節は、イチイの名を受け継いだヤンガー・フサルクの ᛦ についてのものです。アイスランドの詩の「張った弓」は、イチイが弓の材だったことと結びつきます。
訳はブルース・ディキンズの英訳(1915年)をもとにした当サイトの日本語訳です。原文は Wikipedia 各項目に掲載の校訂テキストによります(一部の特殊文字は簡略化しています)。
現代のルーン占いでの読み方
ここから先は、1982年のラルフ・ブラム『The Book of Runes』以降に広まった現代の占いの読み方です。上の詩のイメージを手がかりにしていますが、古代のゲルマン人がこのように占っていたという記録はありません。
正位置
古英語詩の「根に支えられ大地に固く立つ」イチイと、北欧の詩の「冬に最も青々とした木」から、厳しい時期にも変わらない芯の強さ、長く続けることで得られる安定を表します。
注意すべき面(逆位置なし)
上下を返しても同じ形なので逆位置はありません。注意すべき面は、アイスランドの詩の「張った弓」「もろい鉄」。張りつめすぎた状態や、柔軟さを失った頑固さを示します。
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ハガルのアエットの5番目
同じ組のルーン: ᚺ Hagalaz・ᚾ Nauthiz・ᛁ Isa・ᛃ Jera・ᛈ Perthro・ᛉ Algiz・ᛊ Sowilo
よくある質問
Eihwazの名前の意味はどこまで確かですか?
「イチイ」という意味はかなり確かですが、2つの語形が並ぶうえ、表していた音は分かっていません。
Eihwazに逆位置はありますか?
ᛇは180度回しても同じ形なので、逆位置として読み分けることはできません。そもそも正位置・逆位置の区別は現代の占いの手法で、古い史料には見られません。
次に読む
- ルーン24文字の一覧 — 3つのアエットと、何が史料に基づき何が現代の解釈かの整理。
- 落下物・くじ占い — タキトゥスが記した木片のくじなど、偶然に意味を読む占いの系譜。
- 北欧・ゲルマンの占い文化 — ルーンのほか、女預言者ヴォルヴァやセイズルの伝承。
- タロット占い — 同じ質問をカードで引き、ルーンの読みと見比べられます。
参考資料
- Wikipedia(英語版)「Eihwaz」 Eihwaz の名前の語源、各地の名と字形の変化、ルーン詩の原文。
- Internet Archive「Runic and Heroic Poems of the Old Teutonic Peoples(Bruce Dickins 編訳、1915年)」 古英語・ノルウェー・アイスランドの3つのルーン詩の原文と英訳。各ページのルーン詩の日本語訳は、この英訳をもとに当サイトが訳したものです。
- Wikipedia(英語版)「Elder Futhark」 24文字の復元名・意味・音価(R. I. Page、M. Barnes の研究に基づく表)、アエットの呼び名、碑文の数と分布、ヴァドステナのブラクテアートの字順。
- Wikipedia(英語版)「Runic magic」 タキトゥス『ゲルマニア』10章の解釈(印がルーンかどうかは決められない)と、ラルフ・ブラム『The Book of Runes』(1982年)以降の現代のルーン占い。
- Wikipedia(英語版)「Kylver Stone」 24文字を順に並べた最古の例(400年ごろ、ゴットランド島)。1903年の発見と、末尾の木の形の記号。