ᛜIngwaz (イング)
神(英雄)イング
ng の音を表すルーン。この音は語頭に来ないため、神とも英雄ともされるイングの名で呼ばれます。北欧神話のユングヴィ(フレイの古い名とされる)と同じ名です。
名前・音・のちの文字
- 復元名(推定)
- *ingwaz 「イング(ユングヴィ)という神・祖先の名」
- 音
- /ŋ/(英語 sing の ng)
- 英国のフソルク
- ᛝ ing(英雄イング)
- 北欧のヤンガー・フサルク
- なし(16文字への整理で廃止)
「*」は文献に直接残っていない、言語学上の復元形であることを示します。
このルーンが単独で現れるのは、キュルヴェル石のような文字列(フサルクの一覧)の中だけで、単語の中に単独で使われた確かな例は見つかっていません。i と ŋ を組み合わせた結合ルーンの例はいくつか挙げられますが、多くは読みが争われており、比較的確かな早い例は5世紀前半のサバドバッチャーンの銀の留め金(mari͡ŋs)です。
ゴート人の遺宝とされるルーマニア出土のピエトロアサの首輪には、傷んだ銘を「ゴート人のイングウィに捧げる聖なるもの」と読む解釈があります。北欧のヤンガー・フサルクには残らず、ルーン詩は古英語の詩だけです。
ルーン詩に詠まれたIngwaz
イングは初め、東デーン人のもとで人々に見られた。やがて彼は東へ、波を越えて去り、その車があとを追った。こうしてヘアルディングたちはこの英雄を名づけた。
Ing ƿæs ærest mid Eástdenum / geseƿen secgum, oð he síððan e[á]st / ofer ƿæg geƿát; ƿæn æfter ran; / þus Heardingas þone hæle nemdon.
古英語詩でも難解な一節とされ、海を越えて去る英雄と、そのあとを追う車が何を指すのかははっきりしません。
訳はブルース・ディキンズの英訳(1915年)をもとにした当サイトの日本語訳です。原文は Wikipedia 各項目に掲載の校訂テキストによります(一部の特殊文字は簡略化しています)。
現代のルーン占いでの読み方
ここから先は、1982年のラルフ・ブラム『The Book of Runes』以降に広まった現代の占いの読み方です。上の詩のイメージを手がかりにしていますが、古代のゲルマン人がこのように占っていたという記録はありません。
正位置
現代の占いでは、内に蓄えた力が熟して一区切りを迎えること、次の段階への準備が整うことを表します。古英語詩の、車を伴って海の向こうへ去る英雄の姿から、ひとつの役目を終えて旅立つ節目とも読めます。
注意すべき面(逆位置なし)
上下を返しても同じ形なので逆位置はありません。注意すべき面としては、抱え込んだまま出す時期を逃すこと、区切りをつけられずに同じ場所にとどまり続けることを示します。
恋愛
関係の節目を迎えやすい時期。同棲や婚約など、形を整える話題が自然に出てきます。
仕事
プロジェクトの完了や引き継ぎ。終わらせ方を丁寧にすると、次の仕事への助走になります。
ティールのアエットの6番目
同じ組のルーン: ᛏ Tiwaz・ᛒ Berkano・ᛖ Ehwaz・ᛗ Mannaz・ᛚ Laguz・ᛞ Dagaz・ᛟ Othala
よくある質問
Ingwazの名前の意味はどこまで確かですか?
名前が神(祖先)のイングにちなむことはかなり確かですが、独立した文字として文中で使われた例がほとんどなく、実際の使われ方には不明な点が多いルーンです。
Ingwazに逆位置はありますか?
ᛜは180度回しても同じ形なので、逆位置として読み分けることはできません。そもそも正位置・逆位置の区別は現代の占いの手法で、古い史料には見られません。
次に読む
- ルーン24文字の一覧 — 3つのアエットと、何が史料に基づき何が現代の解釈かの整理。
- 落下物・くじ占い — タキトゥスが記した木片のくじなど、偶然に意味を読む占いの系譜。
- 北欧・ゲルマンの占い文化 — ルーンのほか、女預言者ヴォルヴァやセイズルの伝承。
- タロット占い — 同じ質問をカードで引き、ルーンの読みと見比べられます。
参考資料
- Wikipedia(英語版)「Yngvi(The Ingwaz rune の節)」 Ingwaz の名前の語源、各地の名と字形の変化、ルーン詩の原文。
- Internet Archive「Runic and Heroic Poems of the Old Teutonic Peoples(Bruce Dickins 編訳、1915年)」 古英語・ノルウェー・アイスランドの3つのルーン詩の原文と英訳。各ページのルーン詩の日本語訳は、この英訳をもとに当サイトが訳したものです。
- Wikipedia(英語版)「Elder Futhark」 24文字の復元名・意味・音価(R. I. Page、M. Barnes の研究に基づく表)、アエットの呼び名、碑文の数と分布、ヴァドステナのブラクテアートの字順。
- Wikipedia(英語版)「Runic magic」 タキトゥス『ゲルマニア』10章の解釈(印がルーンかどうかは決められない)と、ラルフ・ブラム『The Book of Runes』(1982年)以降の現代のルーン占い。
- Wikipedia(英語版)「Kylver Stone」 24文字を順に並べた最古の例(400年ごろ、ゴットランド島)。1903年の発見と、末尾の木の形の記号。